2020年2月27日更新

ノルウェー沿岸に刻まれた 大自然の造形美・フィヨルド


ノルウェーの海岸線沿いに連なる、切り立った岩壁の間に大河のような海が造り出すフィヨルドは、絶景とともにこの国の歴史や風土、文化の形成に大いに関わってきました。今回はノルウェーを語るうえで欠かすことのできないフィヨルドについて、ご紹介します。
 
トロルフィヨルド 氷河が削ったU字谷に海水が河川のように注ぎ込んでいます

氷河が削り出した壮大な自然景観

フィヨルドは、簡単に言えば「氷河が大地を削ったあとに、海水が入り込んでできた地形」です。とはいえ、あまりに簡単すぎて、また写真などで目にする景観は壮大過ぎてピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんので、もう少し説明を加えてみましょう。 左の図をご覧ください。今から100万年ほど前の氷河期、スカンジナビア半島からデンマーク、英国北部やアイルランド島一帯は分厚い氷に覆われていました。その氷の厚さはおよそ2000メートル、時には3000メートルに及んだとか。つまり富士山の6~8合目くらいの高さの氷がスカンジナビア半島一帯を覆っていたのです。
 氷河期が終わり、氷が溶け出したのが約1万年前のこと。自身の重さに耐えられずに滑り落ちていく氷塊を氷河といいますが、先にもお話ししたようにノルウェー付近を覆っていた氷の厚さは富士山6~8合目くらいの規模ですから、すでに地面には相当な重圧がかかっています。その重圧のままに氷河が地面を削りながら海へ向かって滑落していく様は、ブルドーザーが大地を削って進んでいくがごとし。氷河は谷をU字に削り、そこに上昇した海水が流れ込みフィヨルドとなるのです。


フィヨルドが育むノルウェーの文化

こうして形成されたフィヨルドは、現在ノルウェーの海岸線約5万7000キロ上に1700以上あるといわれています。それらのなかには有名なソグネフィヨルドやゲイランゲルフィヨルドのように、切り立ったU字谷と青く澄んだ大河のような海が描き出す「これぞフィヨルド!」という様相のもののほか、ロフォーテン諸島のように、U字谷の壁などが水没して、山の頭の部分だけが島となって点々と連なる地形もあります。
山々の上部を切り取ったようなロフォーテン諸島
 またフィヨルドには「入り江」という意味がありますが、その語源をさらに辿ると「旅する」「移動する」という言葉になるのだとか。このことからも想像がつくように、この北の地に住み着いた人々はまるで河川のようにはり巡らされたフィヨルドを「道」として、狩猟や交易を行いました。7~8世紀頃にはヴァイキングがこの「海道」を通って西ヨーロッパへ繰り出します。また氷河が運んだ養分を含む海は北海のタラの豊かな漁場で、そのタラがノルウェーの資源として中世ハンザ都市へと送られ、ベルゲンをはじめとする町々は大いに繁栄しました。フィヨルドの恵みはノルウェーに富と文化をももたらしたのです。


「ノルウェー最大」「世界自然遺産」
多様なフィヨルドの数々


さて、それではノルウェーの代表的なフィヨルドをいくつかご紹介しましょう。ひと口にフィヨルドと言ってもその形状や個性は実は多様なのです。

世界自然遺産に登録されているのがゲイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルドです。ゲイランゲルフィヨルドは海岸線から120キロほど内陸にあることから、氷河が削ったままの荒々しい景観が残されています。「7人姉妹と求婚者」と呼ばれる滝や、山の斜面につくられた「トロルのはしご」と呼ばれる急勾配のドライブルート、景勝列車ラウマ鉄道など、こちらも様々な角度からの風景が楽しめます。ノルウェー王国のソニア王妃はこのゲイランゲルフィヨルドの眺めがお気に入りで、フリダールスユーエの展望台に「フィヨルド・シート」を寄贈したそう。
 
北欧に住む妖精トロルのはしごと呼ばれる壮大なつづら折りの道 ©Samuel-Taipale-visitnorway.com

まずご紹介するのはノルウェー最大規模のソグネフィヨルドです。全長約204キロ、水深は1308メートル、周囲には標高1700メートルを超える岩山が連なり、平均幅約5キロの水面には天候次第では冠雪の山々の姿が映り込む、見事な景観が見られます。ベルゲンなど都市からアクセスしやすいのも特徴。フロム山岳鉄道に乗って山上から、クルーズ船で海からの景色を眺めるなど、通年で多角的に絶景を楽しめます。

ネーロイフィヨルドは先述したソグネフィヨルドの支流で、こちらも手付かずの自然が魅力。雄大なソグネに対し、ネーロイは最も狭いところで250メートルほどと、その狭さが特徴で、岩肌を滑り落ちる滝などの眺望がダイナミックです。  ハダンゲルフィヨルドは、穏やかな山々が連なる、優美さが魅力。山の斜面にはリンゴやサクランボなどの果樹園が広がり、北欧らしい田園風景と人の営みが感じられます。ノルウェーの国民的音楽家グリークはこのハダンゲルの景観を愛し、この地方の伝統的弦楽器「ハーディングフェーレ」の音色を取り入れた『弦楽四重奏曲第1番』を作曲しました。一時スランプに陥ったとき、この風景にたいへん心癒されたという話もあるそうです。

フィヨルド観光の人気シーズンは夏ですが、春や秋、オーロラチャンスの冬など、それぞれに違った顔が楽しめます。ぜひ、様々な季節に足を運んでみてはいかがでしょう。


北欧の旅はこちらから
「沿岸急行船・全線走破の船旅 フィヨルドの絶景と港町を訪ねて」の詳細はこちらから
※いずれも、2020年1月末現在


主な参考文献
■『ノルウェーを知るための60章』(編著/大島美穂・岡本健志 明石書店 2014年)
■『地球の歩き方 北欧 2019~20』(ダイヤモンド社・ダイヤモンドビッグ社)
■『ノルウェー フィヨルドの旅』(著/村上よしゆき NTT出版 1998年)
■『なぜこうなった?あの絶景のひみつ』(文・構成/増田明代 監修/山口耕生 講談社  2018年)