2019年11月25日更新

カッパドキア 驚異の絶景とキリスト教史跡

トルコの「カッパドキア」は奇岩の連なる自然景観のみならず、初期キリスト教の遺産や地下都市など、この地に隠棲した人々の暮らしぶりを今に伝えてくれる見どころがあります。今回はカッパドキアのキリスト教遺跡についてご紹介しましょう。


火山がつくり出した驚異の造形
足跡を残した数々の民族


トルコ南部のアナトリア高原に位置するカッパドキアは約6000万年前、東のエルジェス山(3916メートル)や西のハサン山(3268メートル)の噴火によって形作られました。東西の2つの火山活動で溶岩が流れ込み、膨大な量の火山灰や火山礫が堆積します。それらは何万年もの時を経て風雪や水で削られ、帽子をかぶったような岩の奇観や、日の角度によって様々な色彩を放つ絶景を生み出したのです。

そしてこの地には多くの民族が足跡を残し、文明を築きます。北部には紀元前6000年頃の「世界最古の風景画」といわれる壁画が発見された遺跡がありますし、紀元前1900年頃にはヒッタイト人が大帝国を興してここを治め、古代エジプトと戦います。6世紀にはペルシャ帝国の傘下に入り、それをアレクサンドロス大王が征服したのが紀元前333年のことでした。
キノコ岩が林立するカッパドキア


古代ローマ帝国末期につくられた
キリスト教者たちの隠れ里


カッパドキアに、最も大きな足跡を残したのは4世紀頃から12世紀頃までこの地に隠棲した、キリスト教徒たちでした。この地域は紀元17年頃に古代ローマ帝国の傘下に入り、産声を上げたばかりのキリスト教も流入します。まだキリスト教の弾圧の激しかった時代、カッパドキアの凝灰岩の大地は柔らかく、内部を掘って住居や教会堂をつくるにはうってつけだったのでしょう。ここに多くのキリスト教徒たちが信仰生活を求めて住みつくようになり、いくつもの洞窟聖堂(キリセ)がつくられはじめます。
カランルク・キリセ(暗闇の教会)
こうしたなか4世紀にキリスト教が公認され、ローマ帝国が東西に分裂すると、カッパドキアはビザンチン帝国のキリスト教信仰の中心地のひとつとなり、「カッパドキアの三教父」といわれる聖人も出現しました。なかでも聖バシル(バシレイオス)はギョレメを拠点に、修道士の模範生活の規範をまとめたほか、いまなお「聖大ワシリイ聖体礼儀」として用いられている儀式を整え、聖人に列せられています。

4世紀までの間に1000にのぼるキリセがつくられたといわれ、現在ギョレメにある野外博物館には、現存する大小15ほどのキリセが公開されています。壁面にびっしりと壁画が描かれたエルマル・キリセ(リンゴの聖堂)や、「偶像禁止令」が発令されていた時代に、鮮やかな弁柄色で十字や植物を描いたバルバラ・キリセなど、保存状態の良いキリセのなかで、とくに見事なのが11世紀建造のカランルク・キリセ(暗闇の教会)。保存状態が良く、キリスト誕生から昇天、最後の晩餐などがまるでタイムカプセルを開けたかのような色彩で、生き生きと描かれています。


20世紀に発見された 驚きの地下都市

カッパドキアでもうひとつ注目を浴びているのが、1960年代に発見された巨大な地下都市です。長雨後の土砂崩れでたまたま露出した洞窟に村の子どもが入ってみたところ、そこは明らかに「洞窟」とは違った巨大な空間だったのです。それが口伝えに広まり、政府が調査に入ったのが1965年のこと。調べてみてびっくり、その洞窟はまるで巨大なアリの巣のように、住居はもとより、家畜小屋や井戸、通風孔、ワイン醸造所、教会に学校などがあることがわかりました。さらに外敵から身を守るため、隠し扉や、迷路のような通路に回転扉を仕掛けるなど、防御策も練られていたのです。
カイマクルの地下都市
 この発見はトルコでも大ニュースとなりました。調査はなおも進められており、現在36の地下都市が確認され、いくつかが公開されています。そのうちのひとつ、カイマクルの地下都市は1万2000人が暮らしていたのではないかと推測されている規模です。このほかさらに450カ所の地下都市があるのではないかといわれているのは、驚くほかはありません。またこれら住居のいくつかは洞窟ホテルとして、カッパドキア名物になっています。



こうした華やかな聖堂と驚異の地下都市をつくりあげたカッパドキアのキリスト教徒たちは、しかし12世紀を過ぎると次第に姿を消していきます。11世紀頃からこの地にセルジュク朝などのイスラム勢力が現れ、各地に防御のための城塞(ヒサール)がつくられていることから、対イスラムの攻防が一因であると推測されていますが、イスラムとの共存もじわじわと進み、信仰自体が徐々に薄れて行ったのではないかとも考えられています。そして15世紀、ビザンチン帝国の滅亡がこの地のキリスト教終焉を決定付けたのかもしれません。

カッパドキアの大地はそうした歴史を包含し、なおもそこにただ、悠然と広がります。キリセと地下都市は、その景観ともども、ぜひ目にしたい遺跡です。


羽田発「トルコ一周とカッパドキアの旅」の詳細はこちらから
西日本発 「カッパドキアとイスタンブールの旅」の詳細はこちらから
このほかにもトルコの旅はございます。こちらからご覧ください。
※いずれも2020年11月現在


主な参考文献
■『カッパドキア ―はるかなる光芒―』(著/立田洋司 雄山閣出版 1998年)
■『カッパドキア』(著/萩野矢慶記 東方出版 2006年)
■『カッパドキア』(文/大村幸弘 写真/大村次郷 集英社 2001年)
■『地球の歩き方 イスタンブールとトルコの大地』(ダイヤモンド社/ダイヤモンド・ビッグ社   2016~2017年)