2019年3月25日更新

風土と暮らしが育んだ自慢の味 ヨーロッパのチーズ

山国スイスの暮らしを支えてきた酪農

チーズといえばフランスやイタリアが有名ですが、ヨーロッパ各地でお国柄・土地柄を反映した様々なチーズが作られています。山岳の酪農国スイスと北欧のデンマークのチーズをご紹介しましょう。


山岳の牧畜が生んだ スイスの「山のチーズ」

山国のスイスでは夏山で家畜を移動させながら草を食べさせる独特の牧畜が古くから行われていました。その歴史は古代ローマ帝国時代に遡るといわれます。夏の山小屋では冬の保存食のために搾ったミルクを使ってチーズを作っていたことから、スイスのチーズは「山のチーズ」といわれます。そのため持ち運びに便利なハードタイプのものが多いのが特徴です。
チーズの王様 エメンタール

なかでもエメンタールはスイス中央部からドイツとの国境に近い地域で12世紀頃から作られていたこの国を代表するチーズで、『トムとジェリー』に出てくる孔のあいたチーズそのままの姿が特徴です。かわいらしいイメージがありますが、実は切る前の丸のままの姿は直径80~100センチ、重さは100キロという巨大なもので、それゆえに「チーズの王様」とも呼ばれています。味わいはマイルドでクセがなく、食べやすいのが特徴。親しみやすい王様、といった感じです。

一方、「チーズの女王様」と呼ばれるのがグリュイエールチーズで、これも12世紀頃からレマン湖畔周辺のフランス語圏を中心に作られています。グリュイエールチーズの原産地についてはフランスとスイスで本家争いをしていましたが、1952年の国際会議でスイスのグリュイエール村が発祥の地であると正式に認められました。

グリュイエールは熱で溶けやすいことから、スイスの代表的な料理・チーズフォンデュにも使われます。チーズを白ワインなどと煮溶かし、串に刺したパンを絡めていただきますが、これは固くなったパンを食べるための生活の知恵から生まれました。食べる際は、絶対に冷たいビールを一緒に飲んではいけません。チーズが胃の中で固まってしまい、消化に悪いといわれていますのでご注意を。
とろとろのラクレットチーズ
もうひとつ、ラクレットは料理名にもなっているチーズです。切り口を熱で溶かしてとろけた部分をナイフでそぎ落とし、ジャガイモや野菜などにかけていただく料理で、もともと牛飼いたちがお弁当にチーズを持ち運び、切り口を火であぶって食べたのがその由来でした。アニメ『アルプスの少女ハイジ』では、ハイジが暖炉にチーズをかざして溶かし、パンに乗せてほおばっていましたが、実は生だと少し独特の匂いがあるチーズが、焙り溶かすことで匂いが和らぎ、うま味が増すのです。

なおスイスと国境を接するオーストリアの山岳地方にはツィーゲンケーゼトルテという山羊のミルクで作ったチーズがあります。外側にタイムやオレガノ、ローズマリーなどハーブがまぶされており、山羊のミルク特有のクセがなく食べやすいのが特徴です。逆にハーブの香りが強い、という感想も聞かれますが、この辺りはお好み次第。品質の良いミルクが採れる初夏から夏が旬といわれていますので、もしインスブルックの市場などで見かけたら、試してみてください。

女性酪農家が生んだ デンマークのチーズ
デンマークのチーズ ©デンマーク観光局
 一方北欧のチーズ大国といえばデンマーク。チーズは国民ひとりあたりの年間消費量が17キロ、また年間に生産されるチーズの7割が輸出されているという酪農大国なのです。

とはいえ、デンマークのチーズ作りが本格化したのは1800年代のこと。豊かな農地が乏しいデンマークは酪農に活路を求め、国を挙げてヨーロッパ各国のチーズを研究し、それをもとに自国のチーズを生み出したのです。日本も明治維新とともにヨーロッパからチーズが入り、それを手本にチーズの研究・生産が本格化したことを思うと、デンマークはその先駆けといえるかもしれません。

デンマークが手本としたのはオランダのゴーダやエダム、スイスのグリュイエールなどで、これによりサムソーやマリボーといった代表的なチーズが生まれました。

なかでもハヴァティはサンドイッチなどによく使われる、非常に人気のあるチーズで、この国のチーズ生産のパイオニアと言われる女性酪農家、ハンナ・ニールセン(1829〜1903)が経営していた農場名を冠したものです。ハンナは19歳で農場に嫁ぎ、夫の仕事を手伝う傍らバターやチーズ作りを研究。さらにヨーロッパを旅して世界のチーズ作りを見聞し、自身の農場で製品開発を進めました。その一方、1000人以上もの女性にその製法を教えるなど、社会活動にも貢献しました。

チーズの楽しみ方あれこれ

ヨーロッパではチーズ専門店や市場、スーパーなどで様々な種類のチーズが買えます。チーズと合わせるパンは、インスブルックなどオーストリアでおすすめなのがカイザーゼンメル。直径10センチ弱の円盤型のパンで、長期滞在をされた方にはお馴染みでしょう。スイスではライ麦や穀物の入った黒パンを、デンマークでは全粒粉やライ麦粉にゴマが混ざったパンなどを試してみてはいかがでしょう。
チーズプラトーはいかが ©スイス政府観光局
 塩気のあるハードタイプのチーズはグリーンサラダと相性が良いので、削ってサラダにトッピングしても。チーズを薄く削るスライサーやおろし器は現地のスーパーなどにありますので、これを機に専用の道具を手に入れてみるのもいいですね。

またヨーロッパの人たちはボードやパニエと呼ばれる籠皿にお気に入りのチーズや季節の果物を盛り合わせた「チーズプラトー」を作り、ワインとともに楽しんでいます。籠やボードも手軽に入手できますので、日本でチーズプラトーに挑戦してみては。ぜひ行った国々ならではのチーズを楽しんでください。
主な参考文献
■『世界のチーズ図鑑』 (NPO法人チーズプロフェッショナル協会・監修 マイナビ 2015年)
■『知っておいしいチーズ事典』 (本間るみ子・監修 実業之日本社 2017年)
■『10種でわかる世界のチーズ』 (村瀬美幸・著 日本経済新聞出版社 2014年)
■『チーズの文化史』 (森枝卓士・編 河出書房新社 1999年)
■『チーズクラブ』 (雪印メグミルク)