2018年10月25日更新

クリスマスの音楽

降誕節の始まりとともに、ヨーロッパを中心にクリスマスマーケットが開かれ、街中や教会などからこの時期ならではの音楽が流れてきます。今回は讃美歌や教会音楽を中心に、クリスマスの音楽についてご紹介しましょう。
クリスマス音楽の由縁をひもといてみると、その起源は実に様々。数々ある讃美歌にはグレゴリオ聖歌やイギリスやフランス、ドイツ各地で市井の人々によって歌われていた民謡やキャロル(世俗音楽)がもとになっているものや、著名な作曲家が書いたものなどがあり、ヨーロッパの長い歴史のなかで形を変えながら現在まで歌い継がれています。現代では宗教色のない、クリスマスというイベントそのものを楽しむ『ジングルベル』『赤鼻のトナカイ』や、『ホワイトクリスマス』などポップスから生まれた歌もあり、世界中で新しいクリスマスの歌がつくられています。


宗教改革で庶民に広まった讃美歌
そもそもクリスマスは古代ローマ帝国時代の冬至の祭りが、4世紀のキリスト教公認以降、キリストの誕生(降誕)と結び付けられたものともいわれ、キリスト教の伝播とともにヨーロッパに広まりました。6世紀には「グレゴリオ聖歌」の規範が生まれ、中世になると各地に修道院が設立され、聖歌を歌うための附属合唱団も誕生します。なかにはドレスデンの聖十字架教会の合唱団(13世紀)、ライプチヒの聖トーマス教会の合唱団(1212年)など、今でも世界的に知られ活動しているものもあります。  ただ中世までの教会音楽はキャロルと違い、あくまで聖職者が歌うもので、一般の人々にとってはミサの日に「聴く」ものでした。その常識を覆したのが、宗教改革(1517年)で知られるマルティン・ルター(1843〜1546年)でした。

ルターは「会衆も礼拝に積極的に参加すべき」という信念から、一般の人々が教会のミサの合唱に加わることを推奨し、その教えに共感した作曲家がコラールやカンタータを作りました。またルター自身がリュートをたしなむ音楽好きであったことから、自ら讃美歌を作曲し、昔から歌われていたキャロルを編曲して、いわば率先して規範を示したのです。ルターの『神はわがやぐら』『天のかなたから』は今でもクリスマスに歌われています。これを機に、教会音楽は讃美歌やクリスマスのお祝いとともに、人々の生活により深く根差していくことになったのです。


音楽の父バッハが生んだ教会音楽

ルターの功績は教会音楽に大きな影響を与え、「音楽の父」ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685〜1750年)の『クリスマス・オラトリオ』、ヘンデル(1685〜1759年)の『メサイア』など、クリスマスの時期には必ず演奏される名曲が生まれます。バッハは、1723年に、ライプチヒの聖トーマス教会音楽監督に就任します。熱心なルター派信徒であったバッハは、亡くなるまでの27年間、ここでルターの信念に乗っ取ったコラール、カンタータやオルガン曲などを書きました。バッハの墓はこの教会内にあります。

現在聖トーマス教会では降誕節のシーズンにはバッハ作曲のクリスマスの讃美歌『まぶねのかたえに』をはじめとする教会音楽コンサートが開かれています。クリスマスマーケットを訪れたら、ぜひ堂内に響く音色にも耳を傾けてみてください。


『きよしこの夜』は平和への祈り

19世紀に入ると昔ながらのキャロルやグレゴリオ聖歌、あるいはバロック時代の教会音楽を編曲した歌がつくられます。『荒野の果てに』はフランスの、『まきびと羊を』はイギリスの古いキャロルを元にした、現在でもよく耳にする讃美歌です。

クラシックの音楽家による讃美歌で有名なのは、フェリックス・メンデルスゾーン(1809〜1847年)の『天には栄え』でしょう。メンデルスゾーンはバッハが活躍したライプチヒ生まれ。14歳のときに祖母からクリスマスプレゼントとして『マタイ受難曲』の楽譜を贈られ、19歳のとき(1829年)にこの大作を蘇演。それまで埋もれていたバッハの名を世に知らしめました。この功績がなければバッハが「音楽の父」と呼ばれることもなかったといわれています。ライプチヒにはメンデルスゾーンの家が公開されていますので、聖トーマス教会ともども、ぜひ訪れてみてください。
最後に誰もが知っている『きよしこの夜』誕生のエピソードをご紹介しましょう。この曲は1818年、ドイツと国境を接するオーストリアの町オーベンドルフの聖ニコラス教会で初めて演奏されました。教会のオルガンが壊れクリスマスのミサの演奏ができず、牧師のヨゼフ・モールが自身で書いた詩を手にして「ギター伴奏でみんなが歌うことができる曲を」と、町の音楽教師フランツ・グルーバーに作曲を依頼したのがきっかけです。

この時代、ナポレオン戦争で宗主ザルツブルク教皇領は消滅し、国境の町はドイツとオーストリアの領土争いにさらされ人々は不安な日々を過ごしていました。牧師モールはそうした人々の姿を見ていたのでしょう。

『きよしこの夜』の歌詞には、モールの平和な日々への願いと祈りがこめられているとわれています。この曲が現在300以上の言語に訳され、世界中で歌われているのは、そうした普遍的な祈りが共感を呼ぶのかもしれません。

今年は『きよしこの夜』が誕生して200周年。現在教会はなく、オーベンドルフの丘に小さな「きよしこの夜礼拝堂」が立てられています。訪れたら、ぜひこの曲を口ずさんでみてください。


主な参考文献
■『キリスト教と音楽』(金澤正剛・著 音楽之友社 2007年)
■『教会音楽ガイド』(越川弘英・塚本潤一・水野隆一・編 日本キリスト教団出版局 2010年)
■『歴史再発見 ルターと宗教改革500年』(江口再起・著 NHK出版 2017年)
■『讃美歌21 きよしこの夜』(日本基督教団出版局・ビクターエンタテインメント 1997年)
■『讃美歌21 もろびとこぞりて』(日本基督教団出版局・ビクターエンタテインメント 1998年)