2018年7月30日更新

世界が認めた木の文化 日本の世界遺産

屋久杉ランド  ©公益社団法人鹿児島県観光連盟
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)に登録されている日本の世界遺産は、2018年5月現在、文化遺産17件と自然遺産4件の計21件。今月6月は新たな登録地が発表される予定です。

基準を変えた奈良文書 登録数は世界12位に

日本初の世界遺産登録は1993年。文化遺産として「法隆寺地域の仏教建造物」(奈良県)と「姫路城」(兵庫県)、自然遺産として「屋久島」(鹿児島県)と「白神山地」(青森県、秋田県)の計4件が一度に登録されました。

しかし、93年といえば、ユネスコの総会で世界遺産条約が成立した72年から20年以上後のことです。それまで一つの登録もなかったのは、日本が条約を締結したのが92年と遅かったためでした。世界遺産を推薦するのは締結国に限られることから、日本から選ばれることがなかったのです。

締結が遅れた要因のひとつとして、先進国入りが最優先事項だった当時の日本では、文化や自然保護への関心が今ほど高くなかったことが挙げられます。さらに、木や土を材料とし、しかも自然災害で損傷を受けるたびに修復を重ねる日本の建築物に対し、世界には「真正性」を疑う風潮もあったようです。当初、世界遺産の活動をリードしていたのは石の文化をもつ西洋の先進国。そのため条約を結んでも登録は難しいと考えられていたのです。
宗像大社
しかし、92年にようやく条約を締結。以降、日本は登録数を増やし、今では世界12番目の登録数を誇るまでになりました。背景には、木の文化への理解を深めるための日本の地道な活動がありました。日本には、もとの建物と同じ素材や道具を使って再現する伝統手法があります。94年に奈良県で開催された国際会議では、自国の歴史的建造物の真正性を丁寧に説明。これにより石造りに偏っていた登録基準が変わり、新しい基準が「奈良文書」としてまとめられました。これは、木や土の文化を有するアジアやアフリカの建造物にとって、登録の追い風となっています。

日本の文化遺産17件のうち、記憶に新しいのは、17年に登録が決まった「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)でしょう。九州本土から約60キロ離れた玄界灘に浮かぶ沖ノ島は、古くから島自体が信仰の対象とされ、国家的な祭祀が行われてきました。女人禁制、一木一草一石たりとも持ち出しが許されないなど、厳格な禁忌にも世界が注目しました。
(上)中グスク城跡(下)宮島 厳島神社
2000年登録の「琉球王国のグスク及び関連遺産群」(沖縄県)には、首里城跡や今帰仁城跡、斎場御嶽をはじめ9つの遺産が含まれます。按司と呼ばれる豪族がグスク(城)を築いた琉球王国時代の沖縄には、中国や東南アジアの影響を受けた独自の文化が花開いていました。

既述のように、日本の世界遺産における重要な要素が木です。1996年に登録された広島県の「厳島神社」も木造建築。瀬戸内海に浮かぶ宮島にあるこの神社は、平安の宗教建築物を今に伝える遺産として登録されました。神社の前面に広がる瀬戸内海、背後にそびえる弥山などの地域とともに本殿、拝殿、大鳥居などの建造物が登録されています。

自然遺産は4件と数は少ないものの、いずれも日本独自の自然が残るエリアです。白神山地とともに日本で初めて自然遺産に登録された「屋久島」は、樹齢7200年と推定される「縄文杉」をはじめ樹齢1000年を超える「屋久杉」で知られます。海岸部から亜高山帯に及ぶ植生の典型的な垂直分布が見られるなど特異な生態系が特徴で、なかでも標高1000メートル付近まで広がる楠、樫、椎などの照葉樹林の規模は世界最大といわれます。
 
境浦と二見湾 ©小笠原村観光局

「屋久島」登録後、12年ぶりに自然遺産に認定されたのは、「知床」(北海道)でした。北海道東側に位置する知床半島は約63キロの半島。日本に残る最後の原始地域と表現されることがあるのは、人が簡単には入れない場所だからです。標高1661メートルの羅臼岳をはじめとする山々が馬の背のように続き、海岸線は断崖絶壁。オオワシ、シマフクロウ、オジロワシなどの絶滅危惧種が生息し、高山や湿地特有の植物の宝庫でもあります。

「小笠原諸島」(東京都)が自然遺産として登録されたのは、さらに6年後の11年でした。東京湾から南に約1000キロ離れた小笠原諸島は、大小約30の亜熱帯の島々で構成。どの大陸とも一度も陸続きになったことがないため独自の生態系が育まれ、「東洋のガラパゴス」とも呼ばれます。小笠原の固有種は枚挙に暇がありません。オガサワラコウモリ、アカガシラカラスバトなど、絶滅が心配される種も少なくなく、世界遺産への登録は生態系を守るうえでも有意義なことだったといえるでしょう。

無形の遺産も保護の対象に 今夏長崎と天草が新たに登録へ

文化遺産も自然遺産も「有形」ですが、「無形」の遺産もあります。それが、06年発効の「無形文化遺産保護条約」にもとづいた「無形文化遺産」です。日本では、08年に「能楽」が登録されたのを最初に、「歌舞伎」「雅楽」など、21件の無形文化遺産が登録されています。13年には「和食:日本人の伝統的な食文化」が登録され、大きな注目を集めました。
秋田 花輪祭の屋台
最も新しく記載されたのは、16年登録の「山・鉾・屋台行事」です。これは、09年に登録された「日立風流物」「京都祇園祭の山鉾行事」に、「花輪祭の屋台行事」や「秩父祭の屋台行事と神楽」など31件の「山・鉾・屋台行事」を加え、国指定重要無形民俗文化財計33件をグループにして拡張提案したものです。いずれも山車が巡行する祭りで、地域の安泰や厄除け、豊作などを祈願するもの。華やかに飾り付けられる山車は地域住民の手で守られ、地域社会を結びつける役割を果たしてきたことも申請理由となりました。

新たに登録を待つ遺産もいくつもあります。今年は、かねてより登録が期待されていた「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎県、熊本県)が、6月にバーレーンで開催される世界遺産委員会で登録されることがほぼ確実になっています。本登録の際にはまた大きな話題となることでしょう。

世界が認める日本の宝。国内の世界遺産を訪ねることで、日本の魅力が再発見できそうです。


主な参考文献
■『まるごと日本の世界遺産』(著/増田明代 講談社 2014年)
■『いますぐ行きたい! 日本の世界遺産(著/山本厚子 エクスナレッジ 2016年)