2017年6月30日更新

天使の歌声で世界中を魅了 ウィーン少年合唱団

音楽の都ウィーンにはあらゆるクラシック音楽の魅力が詰まっています。 そのなかでも特別な輝きを放っているのがウィーン少年合唱団。 巨匠トスカニーニが「天使の歌声」と称えたその歌声は、 オーストリアのみならず世界中の聴衆を魅了しています。

 
500年を超える伝統の歌声 ユネスコ世界遺産にも登録

今年3月、ウィーン少年合唱団がユネスコの無形文化遺産に登録されました。その登録理由は、特別な技術教育が行われていること、そしてオーストリア国外にもその名を知らしめたコーラスの響きを現代に受け継いでいること、だそうです。

では、この「天使の歌声」は、いつから育まれてきたものなのでしょう。ウィーンの宮廷礼拝堂での少年の合唱は13世紀末から行われていましたが、少年聖歌隊の正式な発祥は1498年とされています。神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン一世は、宮廷をインスブルックからウィーンに移すため、この年、ホーフブルク王宮の宮廷礼拝堂の建設に着手。このとき6名の少年が宮廷楽団の一員として活動することになり、これが現在のウィーン少年合唱団の基礎となりました。

1918年、第一次世界大戦終結とともにハプスブルク王朝が崩壊すると、宮廷楽団はオーストリア教育省の下に置かれ、少年聖歌隊は解散を余儀なくされます。しかし当時の宮廷楽長ヨーゼフ・シュニット神父が私財を投げ打ち、1920年代に民営の少年合唱団として再生。今も合唱団のトレードマークとなっているセーラー服はこのとき始まったものです。
アウガルテン宮殿
現在、合唱団は私立の全寮制学校となり、変声期を迎える前の9歳から14歳までの団員100人あまりが在籍しています。練習場、寄宿舎、学校の機能を備えた彼らの本拠地はウィーンのアウガルテン公園内に建つ白亜のアウガルテン宮殿。団員はオーストリア人が最多となりますが、その国籍は日本を含め世界各地に及びます。団員たちは「モーツァルト・コア」「シューベルト・コア」「ハイドン・コア」「ブルックナー・コア」と、合唱団にゆかりある音楽家の名を冠した4つのグループに分かれていますが、グループ間に格差はありません。オーストリアの学校制度は、小学校4年間、その後ギムナジウムの低学年4年間、高学年4年間で構成されていますが、ウィーン少年合唱団は、ギムナジウム低学年まで。少年たちは低学年終了時、もしくは変声期が始まるまで、一般学科と音楽の勉強を両立する生活を送ります。

音楽の英才教育を受けた彼らは、卒団後も多くが音楽家として活躍。その代表がシューベルトです。合唱団と共演した音楽家もまた豪華で、モーツァルト、サリエリ、ブルックナーなどの名が並びます。ハイドン兄弟は合唱団のエキストラとして歌いました。
 
独自のホール「ムート」で子どもオペラの公演も

ウィーン少年合唱団は、年間約300ものコンサートでその美しい歌声を披露しており、その舞台は、オーストリア国内に留まりません。各コアがそれぞれ年間9~11週間に及ぶ公演ツアーに参加。世界各国を訪れ、50万人もの聴衆を魅了しています。  彼らのレパートリーの幅広さにも特筆すべきものがあります。中世音楽から現代音楽まで、さらには世界各国の音楽、ポップス、映画音楽と実に多彩です。近年では映画『アナと雪の女王』挿入歌「Let It Go」を歌って話題になりました。海外遠征を経た団員は著しい進歩を遂げるとか。海外ツアーは、コアの団結を強め、少年自身の心の成長も促すそうです。
©Österreich Werbung/Lammerhuber
もちろん、本拠地ウィーンでの活動も欠かせません。ウィーン少年合唱団は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場男声合唱団とともに「ウィーン宮廷楽団」を構成する一員です。ホーフブルク王宮の宮廷礼拝堂(ブルクカペレ)のミサで歌うことは今も昔も変わらぬ彼らの使命。4つのコアのうち、少なくとも1グループは必ずウィーンに残り、夏休み(7〜8月)を除く毎日曜日と宗教的祝日の朝9時15分から行われるミサに参列し、その歌声を響かせています。少年合唱団はソプラノとアルトのパートだけで構成され、低音部は少年合唱団OBが担当します。宮廷礼拝堂のミサではOBが1階部分、少年たちは天井に近い3階のバルコニー部分で歌います。天上から降り注ぐ透き通った声は、まさに「天使の歌声」そのもの。立ち見であれば誰でも無料で聴くことができるのも、音楽の都ウィーンの懐の深さでしょうか。

2012年12月には、アウガルテン宮殿の敷地内に独自のコンサートホールMuTh(ムート)がオープンしました。MuThは「ミュージック&シアター」の略。400の観客席を持ち、ステージも広々としています。ここでは、夏季を除く毎週金曜の午後、コンサートが行われ、最新のレパートリーが紹介されます。近年、子どもオペラのオリジナル作品にも積極的に取り組んでいて、MuThではオペラも上演されています。  名だたるオーケストラとの共演も多く、クラシックファン垂涎のウイーンフィル・ニューイヤーコンサートでは、2012年と2016年にマリス・ヤンソンスの指揮の下、聴衆を魅了しました。ウィーン国立歌劇場や、ウィーン国立バレエ団のもうひとつの本拠地でもあるフォルクスオーパー・ウィーン、ザルツブルク音楽祭などにも出演するほか、「ウィーン賛歌」と名付けられた公演では、ホーフブルク王宮の冬の乗馬場でスペイン式乗馬学校によるリピツァーナ種の白馬の演技と合唱の見事な競演を繰り広げます。

ウィーン少年合唱団は日本とも縁を築いています。彼らが初めて日本を訪れたのは1955年のこと。以来、日本にも多くのファンを有していますが、とくに1964年の来日時は、ウィーン少年合唱団が主演したディズニー映画『青きドナウ』が前年に公開されたことで、熱狂的に出迎えられたそうです。東日本大震災発生直後には、ウィーンで史上初の4グループ合同演奏によるチャリティ公演を行い、被災地支援に大きな貢献をしてくれました。翌年の日本ツアーからは、復興支援ソング『花は咲く』を全国各地で歌い、日本の聴衆を感動に包んでいます。

人生の、ある一時期にのみ放たれる「天使の歌声」。その美しい声で人々の心を動かす彼らは、ウィーンを代表する文化使節といえるでしょう。

主な参考文献
■ウィーン少年合唱団オフィサルサイト
■ウィーン観光局オフィサルサイト
■『アウガルテン宮殿への道〜 ウィーン少年合唱団とともに』(著/バッハー・眞理 ショパン 2002年)
■『少年合唱団〜天使の歌声』(編/ダンスマガジン 新書館 2004年)