2017年9月19日更新

豪大陸の自然を5万年守り続けた 先住民族アボリジニ

世界最古の文化を持つオーストラリアの先住民族アボリジニ。「ドリーミング」と呼ばれる独特の世界観を持ち、自然とともにある彼らの生き方は、オーストラリアの文化や芸術に大いなる恩恵をもたらしています。


天地創造の時代を今に伝える オーストラリアの先住民

アボリジニの起源については、オーストラリア自体を発祥の地とする説、ニューギニアとオーストラリア大陸が地続きだった5万年前にアジアから渡来したという説など諸説あります。いずれにせよ、彼らの文化が世界最古の文化のひとつであることは疑いの余地がありません。ヨーロッパから人々が入植する何万年も前から、彼らはオーストラリア大陸で自然と共存しながら暮らしてきました。オーストラリア大陸が完全に孤立した後は、ほかの大陸とほとんど交流を持たず、独自の生活文化を築いてきたと考えられています。最初に持ち込まれた石器と同じものが最近まで使われていたことからも、その孤立ぶりがわかるでしょう。

アボリジニは多くの部族に分かれ、200とも500ともいわれる言語を持っていたとされます。部族とは、地縁関係によって成り立つ小グループのこと。そこには祖先を共通とするいくつかの親族が集まっていて、各集団には、近親相姦を防ぐために「スキンネーム」と呼ばれるグループ名がつけられていました。現在、アボリジニの子孫はオーストラリアの人口の数パーセントに留まりますが、時代に翻弄されながらも、その独自の文化を今に伝えています。

彼らの文化を語るうえで欠かせないキーワードが「ドリーミング」です。これはアボリジニの概念を英訳したもので、「夢」とは異なります。アボリジニの人々は、創世神話の時代(ドリームタイム)から存在する「精霊」こそが、自然界のすべてを創造し、生きるものすべての祖先となったと信じてきました。ドリーミングとは、自分たちの集団が属する祖先の精霊の旅の話を語り伝える概念とでもいうべきもの。それぞれの部族は、自分たちが生まれた土地の創造にまつわる特有のドリーミングを共有していたのです。
ブンジラカ・アボリジナル文化センター ©Visit Victoria
文字を持たなかったアボリジニは、歌や踊り、絵画、語りを通して彼らのドリーミングを表現し、伝えてきました。オーストラリア各地の洞窟の壁や岩に残された壁画や岩絵もまた、ドリーミングを表しているものといえます。もともとドリーミングはシンボル化した記号のようなもので描かれていました。円は泉や野営地、Uの字のような形は座っている人、縦の線は槍といった具合です。こうした記号の組み合わせで、砂漠における水や食べ物の在処といった、厳しい自然環境を生き抜くために必要なもの、先祖から継承されてきた知恵などを後世に伝えたのです。採集や狩猟を続けながら住処を転々としてきたアボリジニの人々にとって、壁絵や岩絵は、広大なオーストラリア大陸を自在に歩くためのものでもありました。

1971年、イギリス人美術教師の指導をきっかけに、アボリジニの人々は、洞窟や岩からキャンバスへと絵を描く対象を変えます。独特の世界観を持つその絵画はやがて「アボリジナルアート」として世界で高く評価されるようになりますが、彼らの絵は本来、一般的なアートの概念で語れるものではないのかもしれません。


歴史や文化にふれる ウォーキングツアーも

そんなアボリジニの文化にふれる機会は、オーストラリア各地に用意されています。たとえば、アボリジニのコミュニティとの結びつきが強いとされるビクトリア州メルボルン。オーストラリアの芸術品2万点を収集・展示しているイアン・ポッター・センターは、充実した「アボリジナルアート」コレクションを誇ります。世界遺産でもあるカールトン庭園に建つメルボルン博物館では、アボリジニの神話に登場する創造神ブンジル(楔形の尾を持つワシ)の巣をイメージした「ブンジラカ・アボリジナル文化センター」で、盾や槍、カヌーといった先住民の貴重なコレクションを展示しています。
イアン・ポッター・センター ©Visit Victoria
メルボルン王立植物園で行われているメルボルン歴史散策ツアーもおすすめです。実は、この植物園はかつて「ブーンワルング」と「ウォイウォラング」というアボリジニの部族の集会および宿泊の地でした。ここでは、アボリジニの人々が古来食べていた動植物や、使っていた道具、薬用の植物、儀式などについての解説を聞きながら、ゆかりのスポットを訪ね、伝統のハーブティーを楽しむことができます。

また、食を通してアボリジニの知恵にふれることもできます。近年、オーストラリアではブッシュ・タッカーと呼ばれる栄養価の高い食材が見直されていて、料理に取り入れるシェフが増えているのです。ブッシュ・タッカーとは、カンガルーやエミュー、ブッシュトマトなど、アボリジニが伝統的に食してきたオーストラリア原産の動植物のこと。植物の種子を挽いた粉で作るダンパーと呼ばれるパンケーキもよく知られています。
メルボルン王立植物園の歴史散策ツアー ©Visit Victoria
現在、アボリジニの人々の多くは現代的な生活をしていますが、なかには、森で眠り、川で水を汲み、木の実を探して食料とするなど、太古の昔と同様、自然に近い場所で精霊たちとともに暮らしている人もいます。アボリジニには元来「所有」の意識がありません。あるがままの自然をそのまま子孫に受け継ぐことを使命とし、万物の神である自然を敬い、自然と調和し、ほかの動植物と共生する彼らの姿は、人間だけが特別な存在ではないということを教えてくれているようです。オーストラリアの白人はかつてこう言ったとか。「アボリジニは、5万年の間、この大陸を守ってきた。それなのに私たちはたった200年で壊そうとしている」。現代人たちは、いま一度、アボリジニの生き方に思いを馳せる必要があるのかもしれません。


主な参考文献
■『多文化国家の先住民』(編/小山修三、窪田幸子 世界思想社 2002年
■『アボリジニ現代美術展』(編/小山修三、上橋菜穂子、南本有紀、前田礼 現代企画室 2003年)
■『アボリジニで読むオーストラリア』(著/青山晴美 明石書店 2008年)
ビクトリア州メルボルン公式サイト