2017年8月14日更新

食の世界遺産・メキシコ料理 古代文明から伝わる食文化

2013年、和食がユネスコの「食の無形文化遺産」に登録されました。 それより早い2010年に食の無形文化遺産となったのがメキシコの伝統料理。食材や調理方法の独自性、儀式、祭礼の文化が今なお続いていることなどが認められたのが理由です。今回は奥深いメキシコ料理の魅力に迫ります。


アステカ王国の豪華な食事

コルテス率いるスペイン人一行が初めてテノチティトランに足を踏み入れたのは1519年。彼らは当時、メキシコ中央部の高原地帯を中心に隆盛を誇っていたアステカ王国の皇帝モクテスマ二世が、七面鳥のパイ、うずらのロースト、熱いトルティージャ、豆のタマレス、チョコレート飲料をはじめとする30種類以上の料理を食しているのを見て驚いたそうです。
スペイン人が新大陸から持ち帰ったトウモロコシ、ジャガイモ、トマト、唐辛子は今や世界中の料理に影響を及ぼしています。逆に、スペイン人が持ち込んだ米、タマネギ、ニンニク、豚は現在のメキシコ料理でなくてはならないものに。メキシコ先住民のそれまでの調理法は蒸す、煮る、茹でる、焼くが中心でしたが、豚からラードが取れ、揚げたり炒めたりのスペイン式も加わることになりました。メキシコ料理は、マヤやアステカの先住民文化とスペイン料理が混ざり合いながら育まれてきたのです。


マヤ文明は トウモロコシのおかげ!?

メキシコ人の主食はトウモロコシの粉を練って焼いたトルティージャ。メキシコのレストランでは、ほぼ必ずトルティージャ入りのバスケットが出てくるでしょう。トウモロコシはアメリカ大陸で唯一栽培化された土着の穀類で、先住民の間で「人間はトウモロコシから生まれた」といわれていたほど重要な作物。ピラミッドや優れた天文学知識など高度な文明が築かれたのは、栄養価の高いトウモロコシを主食としていたからだという説さえあります。さらに植物性たんぱくの豆、ビタミンCが豊富なチレ(唐辛子)を組み合わせたのがメキシコ料理の原型といわれており、栄養バランスは満足に近いものだったようです。はるか昔からこのような知識を持っていたことにも驚かされます。
 日本人がご飯の種類にこだわるように、メキシコ人はトルティージャにこだわります。出来立てのトルティージャは塩をかけて丸めて食べるだけで美味。肉や魚介、野菜などの具を挟めばタコス、さらにその上にサルサ(ソース)をプラスして焼いたものがエンチラーダ。くさび型にカットして揚げれば日本でも親しまれているトルティージャ・チップスになり、メキシコ名産のアボカドを使ったサルサの一種ワカモレとよく合います。たいていのレストランにはライムや生野菜、香草がテーブルに置いてあるので、自分好みにアレンジするのも楽しみです。

メキシコではトウモロコシは飲み物としても親しまれてきました。トウモロコシとカカオを粉にしたものを混ぜた「チョコラテ」(チョコレート)は、カカオの豆が交換経済において貨幣の役割を担ってきたこともあって神聖なものとみなされ、身分の高い人や戦士しか飲むことが許されていませんでした。マヤ人はさらにアチォテと呼ばれる食紅の一種を混ぜて飲んでいました。アチォテを添加したのは宗教上重要な要素であった「血」を象徴させるためだったそうです。


メキシコ料理の種類は4000以上!

メキシコ料理は4000種類以上あるといわれます。正餐は昼食で、午後2時ごろから2~3時間かけてゆっくりいただきます。この時間帯は定食屋が大賑わい。コミーダ・コリーダと呼ばれる定食には、スープや前菜に選べるメイン料理、デザートが付きます。選べるメインはエビのニンニク炒め、牛フィレ肉のステーキといったスパイスの少ないあっさりした料理もおすすめですが、未知なる味の世界を垣間見るなら、メキシコ独自の食材満載の「バルバコア・デ・カルネロ」はいかが。羊肉をテキーラ酒のもとでもある竜舌蘭(アガベ)の葉で包み蒸し焼きにした料理で、独特な香りと野趣溢れる味わいが、古代にさかのぼる文化を感じさせてくれます。
飲み方の定番は、やはりストレート。塩とライムをつまみにしていただきましょう。また、グレープフルーツ味の炭酸飲料で割ったパロマと呼ばれるカクテル、テキーラを使ったカクテル、マルガリータもぜひ試したいもの。本場メキシコでは、グラスの口のところに塩だけでなく唐辛子パウダーがまぶされますが、意外にも唐辛子が甘さを引き締めてベストマッチ。多彩で奥深いメキシコの食文化を感じながらお楽しみください。


主な参考文献
■『魅力のメキシコ料理』(著:渡辺庸生 旭屋出版 2002年)
■『メキシコ古代遺跡とカンクン』(著:邸景一、清水卓司、村井勝、武田和秀、飯田辰彦、萩野純一 日経BP企画 2006年)
■『世界の食文化⑬ 中南米』(責任編集:山本紀夫 農山漁村文化協会 2007年)
■『メキシコ・中米のけぞり旅行記』(文・写真:塩谷卓也 イラスト:下條ユリ 光進社 2001年)
■『地球の歩き方 メキシコ』(著作編集:地球の歩き方編集室 ダイヤモンド・ビッグ社 2016年)