2017年1月31日更新

アンが愛した世界で一番美しい島 プリンス・エドワード島

曲がり角をまがった先になにがあるかは、わからないの。
でも、 きっと一番よいものに違いないと思うの──
(小説『赤毛のアン』の一文より) 

世界で長く読み継がれている小説のひとつ『赤毛のアン』。その舞台であるカナダのプリンス・エドワード島は以前から小説のファンの女性たちを中心に人気がある旅行先でしたが、2014年に日本語版翻訳者の村岡花子さんをヒロインとしたNHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』が放映され、さらに広く知れわたることになりました。今回の旅のエッセンスは、アンが愛した理想郷、プリンス・エドワード島の歴史や見どころをご紹介します。
 
アンの世界そのままの美しさが残る、プリンス・エドワード島  ©カナダ観光局

波間に浮かぶ宝石

プリンス・エドワード島があるのはカナダの大西洋岸に位置するセント・ローレンス湾です。先住民ミックマック族は、本土に寄り添うように浮かんでいる細長い形の島を「アヴェクウエイト=波間に浮かぶ宝石」と表現していました。1534年にヨーロッパ人として島を見出したフランス人のジャック・カルティエも、群青色の大西洋に浮かぶ島のなだらかで緑溢れる自然の美しさに魅せられ、当時の日記に「今まで見たなかで一番美しい島かもしれない」と記しています。

カルティエが到達して以降、島は200年余りフランス領の時代を過ごし、その間サン・ジャン島と呼ばれていましたが、北アメリカをめぐるイギリスとフランスの抗争が終わった1763年、イギリスに合併されてノバ・スコシア植民地の一部となり、セント・ジョン島と名前が改められます。しかし、6年後にはノバ・スコシアから分離。1799年に当時のイギリスの王子の名前にちなみ、現在のプリンス・エドワード島になりました。

島の面積は約5660平方キロメートル。愛媛県くらいしかない島がカナダ最小のひとつの州として認められているのは、1864年にカナダが連邦国家として発足するためにイギリス系の植民地から代表者が集まった第1回会議が、州都シャーロットタウンで開かれ「カナダ発祥の地」との名誉を持つようになったという、歴史上重要な役割を果たしたからです。

そのためか、プリンス・エドワード島で生まれた人たちの郷土愛は非常に強く、イギリス系ケルト人をはじめ、英仏の領土争いに翻弄されてきたフランス系のアカディアン、先住民ミックマック族など様々な民族が集まりながらも、彼らは「カナディアン」であること以上に「アイランダー」としての誇りを持っています。今では島を出てしまった人も夏になると必ず故郷の島を訪れ、カナダでは珍しい日本のお盆のような帰省ラッシュが起こるそうです。
 
グリーン・ゲイブルズ・ハウス©カナダ観光局
小説そのものの風景

さて、ここで話を日本人にもお馴染みの『赤毛のアン』のエピソードに戻しましょう。この島で生まれ育ったルーシー・モード・モンゴメリによって『赤毛のアン』が書かれたのは今からおよそ110年前のこと。モンゴメリは人生の半分をこの島で過ごし、美しい島の自然を物語にたっぷり書き込みました。物語の中でアボンリー村として描かれたのが、海沿いにある小さな村キャベンディッシュです。

美しい海岸から続く牧草地帯、木々に覆われた静かな森。キャベンディッシュは、緑に覆われたのどかな田舎の風景の中にあります。アンの家グリーン・ゲイブルズ・ハウス(緑の切り妻屋根の家)をはじめ、そのまわりには小川が流れ白樺の道が続く「恋人の小径」、共同墓地へ行く途中にある「おばけの森」などアンが名付けて親しんだ自然がたくさんあり、物語の世界へと一気に誘ってくれます。

グリーン・ゲイブルズはもともと本物の農家の家屋でした。この家に住んでいたモンゴメリの母方のいとこにあたるデービットとマーガレット兄妹は小説のマシュウとマリラと同じ独身、モンゴメリと同い年で大の仲良しだった養女マートルと暮らしていました。家のまわりは巨大な農場で、裏手に広がるうっそうとした森がモンゴメリは大好きだったそうです。さらに、村にある郵便局はモンゴメリの祖父が営んでいた郵便局がモデルで、幼くして母を亡くし祖父母に引き取られたモンゴメリも小学校の教師の仕事を辞めて働いていたことがあります。つまり、キャベンディッシュの風景は『赤毛のアン』そのものであり、モンゴメリの人生とも重なる部分が少なくないのです。
 
議事堂プロビンス・ハウス ©カナダ観光局
近年は食通にも人気

もちろん、島の魅力はキャベンディッシュだけではありません。物語の中でアンも憧れた州都シャーロットタウンには、石造りの州議事堂プロビンス・ハウス、古いガス灯や教会といった19世紀を偲ぶ建造物がたくさん残されています。1864年にカナダ独立のための会議が開かれたプロビンス・ハウスは4本の円柱を持つ神殿風のデザインで、緑の公園の中に堂々と建っています。シャーロットタウンのダウンタウンは歩いてまわれる大きさ。海沿いの遊歩道をのんびり散歩するのもおすすめです。

プリンス・エドワード島の第一産業は農業。島の面積の80パーセントが農耕地となっており、ジャガイモ、麦、大豆、イチゴ、ラズベリー、ブルーベリーといった多彩な食材が育まれ、最近はオーガニックの農場も増えています。
 
ファーマーズマーケット
なかでも人気は毎週土曜に開催されるファーマーズマーケット。地元の農家が自分で売りに来ており、作った本人から買うことができます。ファーマーズマーケットには野菜だけでなく、肉やパン、お菓子、クラフトなど品揃えは様々。おすすめはホットドック。お肉屋さんがホームメードで作っているソーセージを焼いてパンにはさめば絶品です。焼きたての香ばしい匂いにもそそられることでしょう。プリンス・エドワード島は港町ならではのロブスターをはじめとする豪快な魚介料理、ワインも有名で、近年は食通に人気の旅行先としての定評も高まっています。


街歩きや島グルメを十分に楽しみつつ、美しい自然に物語の中の世界に引き込まれ、この地を愛する人の誇りにふれる。そんな夢をかなえてくれるのがこの島なのです。


主な参考文献
■『プリンス・エドワード島と東カナダ』 (著/吉沢博子、写真/吉村和敏   日経BP企画 2000年)
■『「赤毛のアン」の故郷へ』  (著/掛川恭子、写真/吉村和敏   講談社 1991年)
■『紀行「赤毛のアン」』  (著/奥田実紀 晶文社 1996年)
カナダ政府観光局ウェブサイト