2014年1月17日更新

先住民アボリジニの大地(後編)

アボリジナル・アートはお土産にもなっています
アボリジナル・アート 

先住民アボリジニの芸術は、その世界観や信仰と深く結びついています。先にも述べたように、文字を持たないアボリジニは絵を使い、踊って歌うことでドリーミングを伝承していました。

これら伝承のための絵画は、オーストラリア全土の洞窟、岩や壁面に描かれています。地域特有の表現方法もありました。ノーザンテリトリーの州都ダーウィン東部に広がるアーネムランドでは、伝統的にユーカリの樹皮に顔料を用いて精霊である動物や人間の骨格や内臓を描いた樹皮画(バークペインティング)が知られています。アリススプリングスなど砂漠中央部では、円や線などの抽象的な表現方法を用いて砂に点描画(ドットペインティング)を描きました。また、平たい楕円の石や木に抽象的な模様を描くこともありました。これはチュリンガという儀礼のための道具です。

オーストラリアを旅すると、どこででもアボリジナル・アートを目にします。絵画作品としてはもちろん、カレンダーやコースターなど様々。先住民アボリジニが先祖から受け継いできた伝統の画法は1970年代以降、欧米(特に現代アート界)で高い評価と人気を得ています。

簡単にアボリジニの伝統楽器ディジュリドゥについても紹介しましょう。伝統的にオーストラリア北部地方、アーネムランドや西オーストラリア州のキンバリーなどで作られ、使用されていました。世界最古の管楽器ともいわれるディジュリドゥは、シロアリに食べられ空洞になった長さ1〜2メートルのユーカリの木を使い、口を当てる部分に蜜蝋を塗ったものです。儀式の際はもちろん、その低音の音色にヒーリング効果があると信じられ、先住民は病の治療にも用いたとされます。ディジュリドゥは入植者がその音色から名づけたもので、アボリジニの言葉ではイタギやマールクなど地域ごとに呼び名は異なります。
アボリジニの聖地ウルル
歩いて知る暮らし 聖地ウルル

先祖の精霊が通った道は、ドリーミングトラックと呼ばれています。大地とアボリジニをつなぐものであり、精霊が立ち止まったところや通った場所は聖地とされました。アボリジニにとっての聖地はいくつもあります。先祖の魂が宿る聖地はその土地に属するグループだけが知っている秘密の場所でした。

ノーザンテリトリー・アリススプリングス南西部の砂漠にある、赤土の巨大な一枚岩ウルル(エアーズ・ロック)は、この地に代々暮らしたアナング族の人々の聖地です。ウルルの高さは348メートルありますが、地上には全体のほんの10分の1しか顔を出していないのだそうです。太陽の光を浴びて時間の経過とともに岩肌の色はオレンジ色から赤、紫へと変化して神秘の輝きを放ち、圧倒的な存在感を示します。  

岩の周囲には全長9・4キロメートルのウォーキングトレイルがあります。トレイルに沿って歩みを進めれば、乾いた砂漠にありながら泉や緑の木立があることに驚くはずです。ドリーミングに出てくる神話の世界を知ればなおいっそう、ドリーミングを伝えるロックアートに魅せられます。トレイルの起点でもあるウルル・カタジュタ国立公園文化センターに立ち寄り、アナング族の文化や暮らし、彼らの伝統的な食事(ブッシュ・タッカー)について学んでからウォーキングに参加したいところです。また、ウルルから西へ50キロメートルほど行った場所にあるカタジュタ(マウント・オルガ)は、アナング族の言葉で「たくさんの頭」という意味だそうです。その名のとおり、32の岩のドームが折り重なるように並びます。ウルルとカタジュタ一帯は国立公園に指定されており、同時に世界遺産にも登録されています。
 
ユーカリの原生林広がる ブルーマウンテンズ

もちろん、アボリジニの聖地は都心部のすぐそばにもあります。シドニーから120キロメートルほど西へ入っていくと、100万ヘクタールにも及ぶグレーター・ブルーマウンテンズ地域があります。ブルーマウンテンズ国立公園など8つの国立公園や保護区で構成され、世界遺産に登録されています。

どこまでも続くユーカリの原生林で覆われた渓谷、砂岩の台地、数々の奇岩やいく筋もの滝などが絶景を作り上げます。時折、渓谷が薄い青色に霞むためより神秘的な風景に。これはユーカリの森から発せられる霧状の油分のためだそうです。また、この地域には何万年もの間、異なる言語を持つ6つのアボリジニのグループが暮らし、アボリジニにとっての聖地や彼らが描いた岩絵(ロックアート)の数々が残されています。

ブルーマウンテンズ国立公園には約1000種の野生植物、90種以上のユーカリの木、46種の哺乳動物、200種の野鳥、58種の爬虫類の生息が確認されています。とりわけ有名なのがスリーシスターズの名で親しまれる、寄り添う3つの切り立った奇岩です。その名が示すとおり、美しい三姉妹が岩に姿を変えられたという先住民アボリジニの伝説が残されています。カトゥーンバのエコーポイント展望台からは、奇岩スリーシスターズとユーカリの原生林に覆われたジャミソン渓谷が一望に。どこまでも続くその景色には圧倒されます。国立公園内には遊歩道がいくつも整備されています。ユーカリ独特の香りを胸いっぱいに吸ってのハイキングで大自然を体感すれば、ブルーマウンテンズの魅力の一端にふれることができるはず。

オーストラリアの主要都市にある博物館や美術館には多くの場合アボリジニの文化や伝統に関する展示コーナーが常設されています。その規模で最大を誇るのが、南オーストラリアの州都アデレードにある州立博物館です。アボリジニの生活や伝統、文化を、映像を交えて紹介する展示コーナーがあり、その展示品は3000点を超えます。
 
主な参考文献
アボリジニで読むオーストラリア (著/青山晴美 明石書店 2008年)
新版 オセアニアを知る事典 (監修/百々佑利子 平凡社 2010年)
大人が旅するオーストラリア (監修/菊間潤吾 新潮社 2005年)
オーストラリア政府観光局各州政府観光局の公式サイト