2014年11月21日更新

モロッコのメディナを歩く(後編)

屋台が立ち並ぶジャマエルフナ広場の夜はひ  
 ときわ賑やか(マラケシュ旧市街)
前編はこちらから

通りの喧噪と住まいの静寂  

メディナの中では、礼拝の場である聖なる場と、生活のための世俗的な場も混在しているように見えますが、実は公私の境界線ははっきりしています。  

人々の住居を定めるイスラム法では、道幅、通路と窓の関係、通りと中庭の関係などについて実に細かな規則が設けられており、住居はこうした規則に則って建てられています。こうした規則が何のためにあるかといえば、それぞれの家族の安全とプライバシーを守り、共同体の中で各家族が日常生活を円滑に送れる社会を構築するためです。  

商業施設の並ぶ表通りを歩いていれば、人々の生活空間はまったく見えません。住居はおもに、細い路地や袋小路の両側にあり、住居への入り口は、通りの壁に取り付けられた質素な扉です。通りの両側に設けられた扉の位置をよく見てみると、互い違いになっていることに気づくでしょう。

これは、扉を開けたとき、向かいの家同士が互いに覗き込めないようにするための工夫です。扉の先に続く通路が直角に折れ曲がっているのも、外から中が丸見えにならないための仕組みです。また、通りに面して住居の壁がありますが、ここには、通常大きな窓は設けられていません。これは、外側から覗かれないためです。他人に姿をさらさないイスラムの女性たちは、外から見られることなく、こうした覗き窓から外の世界を見ているのです。
 
世界最古の大学として知られるフェズのカラ
 ウィーンモスク
メディナの魅力のひとつは、喧噪と静寂のギャップです。売り買いの声、職人の立てる作業音、ロバの鳴き声などで溢れる通りから一歩扉の内側に入ると、そこに広がるのは静寂の世界です。

モロッコの住居の大きな特徴である中庭が吹き抜けになっていて、陽光射し込む明るい空間を作り出しています。中庭は、家族の憩いの場であり、客人をもてなす場であり、結婚の際には宴の場となります。大きな邸宅では、噴水や池が設けられていることもあります。そして、この中庭を取り囲むように、寝室や台所などが配置され、中庭を囲む柱や壁の多くには、色鮮やかなモザイクタイルの装飾や彫刻がなされています。  

通りの喧噪からは想像できない贅沢な空間が広がるメディナの住宅。イスラムの女性が、肌を露出せず、髪もスカーフで隠し、その美しさを家族にしか見せないことからもわかるように、イスラムの世界では、外に豊かさを見せることをよしとしません。豊かさは家族のためにあるものなのです。住居に垣間見えるのは、まさにこうしたイスラムの精神といえます。
かつての邸宅を改装したリヤドでメディナの
 静寂を味わう
変容するメディナとリヤド人気  

本来、旅行者がこうしたメディナの住空間を見る機会はなかなかありません。しかし、最近、マラケシュを中心として邸宅をホテルに改装した「リヤド」(「中庭のある邸宅」の意)と呼ばれる宿泊施設が増えたことで、旅行者もメディナの静寂の一端が味わえるようになりました。

リヤドの経営者の多くは、メディナの魅力に魅せられ、邸宅を買い取ったヨーロッパ人たちだとか。こうした動きは、老朽化が進むメディナの建物の保存にも、一役買っているようです。  

現代のモロッコでは、若者を中心に、新しいレストランやショップが並び、広く世界とつながった新市街を住まいとする人が少なくありません。昔ながらの伝統の残る街を捨て、新しい世界に出ていくモロッコの人々と、彼らに代わって、かつての趣を残すメディナに価値を見出し、ここにとどまる外国人たち。中世のまま時間が止まったかのように見えるメディナですが、その中身は時代とともに少しずつ変容を遂げているようです。


主な参考文献
モロッコを知るための65章(編著/私市正年、佐藤健太郎 明石書店 2007年)
エキゾチック モロッコ(著/外山厚子、バルカツ・ハッサン 心交社 2010年) 
迷宮都市モロッコを歩く(著/今村文明 NTT出版 1998年) 
モロッコの迷宮都市フェス(著/米山俊直 写真/村川敏弘 平凡社 1996年)
紀行 モロッコ史〈新潮選書〉(著/那谷敏郎 新潮社 1984年)