2014年10月17日更新

芸術の基準、古代ギリシャ建築(後編)

イオニア式のエレクティオン神殿 
 ©Zepfanman.com.
前編はこちらから

優美で女性的なイオニア式
アテネ・エレクテイオン神殿

イオニア式は、優美で「女性的」と称されます。柱は細く、柱頭の装飾が特徴的で、渦巻きが左右に垂れ下がったような形状をしています。ギリシャ本土そのものではなく、小アジア(トルコのアナトリア半島一帯)のイオニア地方が発祥とされています。古代ギリシャの勢力が周辺地域に拡大する中で、その文化を取り込んでいったものと考えられます。

イオニア式の代表的な建築物のひとつが、やはりアテネのアクロポリスにあります。この丘の北端に建つエレクテイオン神殿です。前5世紀末までに完成したこの神殿に祭られているのは、女神アテネと海神ポセイドン、そして都市国家アテナイの伝説の王エリクトニオスと考えられています。この建物の南側に玄関があり、イオニアのチュニックをまとった6人の少女像(ほぼ等身大)の柱が優雅に屋根を支える様は必見です。基盤となる地面の凹凸や多様な使途といった条件に対応し、複雑な構造をしていますが、イオニア式の建築様式で統一されているのが特徴です。これは、隣接するパルテノン神殿が、前述どおりドーリア式建築として名高いものの、その建物の内部はイオニア式の柱で形成されているという2つの様式が混在した建築構造であるのとは趣が異なります。  

アクロポリスに上ったら、ぜひ訪れたいのが新アクロポリス博物館です。2009年にオープンした近代的な建造物ですが、アクロポリスから発掘された考古学的価値の極めて高い品目が数多く展示されています。『エレクテイオンの少女像』の柱のオリジナルは損傷が激しくなったため、現在では同博物館に保管されていて、野外にある同神殿で目にするのは模造品です。  

そして、アクロポリスといえば、見逃せないのが夜間のライトアップでしょう。各神殿だけでなく、アクロポリス全体が夜の闇の中に幻想的に浮かび上がります。
 
コリント式のパンテオン(ローマ)
コリント式、モチーフはアカンサスの葉  

古代ギリシャの第3の建築様式はコリント式です。柱の太さはいっそう細くなり、柱頭の装飾がアカンサス(葉アザミ)の葉をモチーフにした繊細なものとなります。ギリシャの国花でもあるアカンサスは、地中海沿岸原産で、ギザギザの切れ込みを持つ大きな葉をしています。ワールド航空サービス東京支店のすぐそばにある日比谷公園内でもあちこちに群生しており、6月から7月にかけて紫色を帯びたガクに包まれた白い花を咲かせます。  

コリント式は前5世紀頃の古代ギリシャを起源にしていると考えられていますが、この様式の建造物はギリシャではほとんど見られないそうです。時代を下って古代ローマの建築に数多く利用されており、コリント式の代表的な建造物としては、ローマのパンテオンが挙げられます。現存するパンテオンはローマ帝国の五賢帝のひとりハドリアヌス(在位117〜138年)の時代に完成したものです。ハドリアヌス帝は在位中に、当時ローマ帝国の支配下にあったアテネの地にゼウス神殿を建設しました。同神殿は、ギリシャ最大級の神殿のひとつである一方、ギリシャ本土では数少ないコリント式の石柱を持つものとして知られています。
 
コリント式のナショナルギャラリー
(ロンドン)
世界各地の建築に見る
古代ギリシャ3つの建築様式  


これら3つの様式の古代ギリシャ建築は後世の世界各地の建築物に様々な影響を与えています。ドーリア式の柱を持つ建築物としては、1990年の東西冷戦終焉の象徴ともなった、ドイツ・ベルリンのブランデンブルク門があります。一風変わったものとして、米国テネシー州のナッシュビル市美術館は、往時のパルテノン神殿の姿を再現した原寸大レプリカです。また、ドーリア式の柱の特徴であるエンタシス(下から見上げると、真っ直ぐに安定して見える錯覚を与える、中央部がやや膨らんだ形状)が、シルクロードを経由して、遠く日本の法隆寺や唐招提寺の柱に影響を与えたという説もあります。  

イオニア式の柱が見られるのが、古代ギリシャの美術品を数多く展示しているロンドンの大英博物館です。パルテノン神殿に代表される前面の三角破風(ペディメント)が、優雅な渦巻き装飾を施した美しい円柱に支えられています。日本でも、東京の迎賓館の外柱にはイオニア式の構造が見て取れます。

コリント式の柱を持つ近代建築のひとつとして有名なのが、ニューヨーク市ウォール街にある証券取引所で、ギリシャの神殿風の堂々とした外観をしています。また、ロンドンのトラファルガー広場に面したナショナル・ギャラリーのファサードや、ロシア・サンクトペテルブルクにあるカザン大聖堂の半円状に列柱が並ぶ回廊などもコリント式の柱を持っています。  
さらに、ローマの代表的な観光スポットである円形競技場コロッセウム(1世紀建造)は、これら3つの様式の柱が混在しています。第1層はドーリア式、第2層はイオニア式、そして第3層はコリント式の柱が建物を支えています。  

世界各地を旅行する際に、柱の形、とくに柱頭の装飾の特徴に注目して、時空を超えた古代ギリシャ建築の影響を垣間見るのも一興ではないでしょうか。