2014年10月10日更新

芸術の基準、古代ギリシャ建築(前編)

晴れ渡った真っ青な空の日が多い、温暖な地中海性気候に恵まれたギリシャでは、乾燥した空気の中、陽光に建築物が映えてくっきりと浮かび上がり、この地域独特の美しい景観を作り出しています。人類史上最も美しいとも称される古代ギリシャ美術。大神殿に代表される建築物は、古代ギリシャ文明が尊んだ調和と、比例原理という思想に基づいて造形化されました。建築はもちろん、古代ギリシャ美術全般の主題とその様式はヨーロッパ美術の源流のひとつであり、その後、ローマに受け継がれていきます。

そしてご存じのとおり、キリスト教文化が席巻した中世を経て、14〜15世紀のフィレンツェで花咲くルネッサンス期に古典文化として復興を遂げていったのです。さらに、時代によって強弱はあるものの、古典的なものへの憧れは根強く存在し続け、近代以降現代に至るまで、古代ギリシャ美術から受けた影響の大きさは計り知れません。
 
ドーリア式のデルフィのアポロン神殿
4つの時代区分  

古代ギリシャ美術は大きく4つに時代区分(5期説もあり)されています。具体的には、構図的装飾を持った幾何学様式期(前11世紀中頃〜)、ギリシャ美術において最も創造性に富んだアルカイック期(前7世紀中頃〜)、黄金期となったクラシック期(前5世紀初頭〜)、経済発展と市民生活の向上などを背景に多様な発展を遂げたヘレニズム期(前323年〜前31年)です。アルカイック期に入ると、各地で石造りの大神殿の建築や、大理石の彫刻の制作が始まり、クラシック期に至るとその建築、彫刻技術は最高水準に達したとされます。  

典型的な古代ギリシャの神殿は、神像を安置するホールの四方を列柱で囲む建築形式が特徴的であり、その列柱の様式によって大きく3つに分類されます。古い年代に普及したものから順に、ドーリア式(あるいはドリス式とも呼ぶ)、イオニア式、コリント式と呼ばれます。これら3つの様式という観点から、アテネやギリシャに現存する神殿などとともに、古代ギリシャ建築について紹介します。
 
ライトアップされ、いっそう神々しさを漂わせるパルテノン神殿
力強く男性的なドーリア式
パルテノン神殿、デルフィのアポロン神殿

ドーリア式は前7世紀頃にギリシャ本土で発明されたものと考えられています。3つの様式の中でも最も重厚で「男性的」な印象があるといわれています。柱は太く、柱頭の装飾は極めて簡素です。その代表的な建築物は、なんといってもアテネ市内のアクロポリス(ギリシャ語で「高い丘の上の都市」の意)に立ち、2500年もの歴史を見続けてきたパルテノン神殿(ユネスコ世界遺産)でしょう。ちなみに、同機関のロゴマークはパルテノン神殿をモチーフにしたものです。  

パルテノン神殿は、クラシック期に建造された建造物であって、長い歴史の中で屋根や浮き彫りの多くが破壊、紛失、損傷を受けているものの、外周を取り囲む力強いドーリア式の列柱は、今なお依然として格段の神々しさを放っています。
 
より保存状態の良いドーリア式の神殿が、アクロポリスから下山して、北西側に隣接する古代アゴラと呼ばれる地区にあります。アゴラとは「市場」という意味で、古代ギリシャでは市民たちが集い、交易だけでなく、情報交換、政治や哲学の談論を行ったところです。ソクラテスやプラトンが弁舌を振るったのもこのアゴラです。古代アゴラの北側に、現存するドーリア式建造物の中で往時の姿を最もよく残しているといわれる神殿があります。ギリシャ神話の火と鍛冶の神様、ヘファイストスを祭る神殿です。  

アテネの北西約180キロメートルに位置する古代都市デルフィのアポロン神殿もまた、ドーリア式の神殿として有名です。現在は土台と石柱しか残っていませんが、かつてここは太陽神アポロンからの神託を受けるための場所であり、古代ギリシャ世界の中心として、「大地のへそ」と呼ばれていたそうです。崩れかけた遺跡の中に、今も往時の神聖な雰囲気が感じられるでしょう。  
リビアのキュレーネ遺跡にも、ドーリア式の
 ゼウス神殿があります

さらにペロポネソス半島西部にあるオリンピア遺跡でもいくつかドーリア式建造物を見ることができます。古代オリンピックの開催地であったオリンピアは、近代オリンピックにとっても重要な場所。

五輪の開催時期が近づくと、太陽光を利用して聖火を採る公開リハーサルの場面がニュースとして流されるのを思い出してみてください。みこ姿の女性たちが採火している背景に見える崩れかけた石柱は、ゼウスの妻であるヘラを祭る神殿遺跡の一部であり、ドーリア式で造られたものです。

そして最後にご紹介したいのが、リビアに残るゼウス神殿。建てられたのは紀元前6世紀、アテネのパルテノン神殿より古いのですが、その大きさは同程度の規模を誇ります。(後編に続く)

後編はこちらから

主な参考文献
増補新装 西洋美術史(監修/高階秀爾 著/青柳正規 美術出版社 2004年)
鑑賞のための西洋美術史入門(著/早坂優子 視覚デザイン研究所 2007年)
図説 西洋建築の歴史(著/佐藤達生 河出書房新社 2008年)
地球の歩き方 ギリシアとエーゲ海の島々&キプロス(制作/上田暁世 ダイヤモンド・ビッグ社 2008年)