2014年9月19日更新

マンハッタン島、歴史と文学散歩(後編)

ニューヨーク公共図書館
前編はこちらから

公共図書館とプラザホテル ミッドタウン  

今日、ユニオン・スクエアでは、この町最古で最大のグリーンマーケット(月、水、金、土曜8〜18時)が開かれています。約40年前にわずか12軒の近郊の農家が始めたマーケット。今では約200軒もの農家が参加し、新鮮な青果、パン、ジャムや蜂蜜、乳製品など、化学肥料を使わない有機栽培にこだわった地域の食材を売っています。ニューヨーカーの大好きな場所のひとつです。すぐ近くにある人気のスーパー「ホールフーズ」は、とりわけオーガニック(有機栽培)の品ぞろえが豊富なことで知られています。  

5番街に戻り、さらに北上しましょう。エンパイアステートビル(34丁目)を通り過ぎると、西側にニューヨーク公共図書館(40〜42丁目)があります。ここにA・A・ミルンの童話集『クマのプーさん』(1926年)のモデルになったオリジナルのぬいぐるみが展示されています。ミルンは、息子クリストファー・ロビンが子どもの頃に持っていたぬいぐるみ(プーさん、ティガー、ピグレットなど)に着想を得て童話を書きました。図書館を西側から抜けると、とても素敵なブライアントパークです。チェスをしている人や読書をする人の姿をよく見かけます。ここもニューヨーカーお気に入りの公園のひとつといえます。  

同じく42丁目、5番街の東側にはグランド・セントラル駅があります。ヒッチコック映画『北北西に進路を取れ』、アル・カポネとアメリカ財務省捜査官の戦いを描いた『アンタッチャブル』など、数々の映画や小説の舞台となりました。駅のショッピングモールやレストランだけを目当てに訪れる人もたくさんいます。  

さらに北上すると、セントラルパークの南端東側の角に行き着きます。公園の前にある名門プラザホテル(市歴史的建造物指定)は、F・スコット・フィッツジェラルドの小説『グレート・ギャツビー』にたびたび登場するホテルです。
 
セントラルパーク ©NYC-photo Alex
都会のオアシス、セントラルパーク アッパー・マンハッタン  

セントラルパークはアッパー・マンハッタンのちょうど真ん中、59〜110丁目の間にある米国最大規模の都市公園で、総面積は約340ヘクタール。高層ビル群が乱立するマンハッタン島の中でも際立った存在であり、緑豊かなセントラルパークはまさに都会のオアシスです。  

19世紀初頭、人々の生活や社会、商取引はマンハッタン島南端地域に集中していました。同じ頃、マンハッタン島の街路計画案がまとめられ、島全体を格子状の街路で区画整備し、経済活動がしやすい効率よい町づくりを目指しました。しかし、計画では公園などの空間はわずか48ヘクタールしか確保されていませんでした。  

19世紀半ばになると、それまで以上にヨーロッパ各国から移民が続々と押し寄せました。1840年頃までに約5万人ものドイツ人移民がやってきて、1845年のジャガイモ飢饉に見舞われたアイルランドからは約100万人がニューヨークに渡ってきたといいます。移民は1880年代に急増し、文化背景を共有する人々が集まってドイツ人街、イタリア人街、ユダヤ人街などの地区ができていきました。  

人口が過密化するなか、人々は緑溢れる水辺のある絵のように(ピクチャラスク)美しいイギリス風の庭園を求めるようになりました。1844年、ニューヨークの知識人らが、この町には人々が憩い集い、文化にも接することのできる美しい公園が不可欠であるというキャンペーンを繰り広げました。こうした市民運動によって誕生したのが、セントラルパークなのです。現在、公園内ではジョギングをしたり、愛犬の散歩をしたりすることができます。ベンチで本を読む学生や絵を描く人、大道芸を披露するパフォーマーも少なくありません。
 
マンハッタンの夜景を楽しみたいブルックリンブリッジ ©NYC
今月のテーマである歴史と文学にまつわる町の見どころやエピソードは、まだまだたくさんあります。もちろん、マンハッタン島の魅力はひと言では語り尽くせるものではありません。そうした奥深い魅力を今から100年ほど前に見出した日本人がいました。O・ヘンリーが活躍していたのと同じ頃、ニューヨークに約2年間滞在した、耽美派の小説家、永井荷風です。『あめりか物語』や『西遊日誌抄』などで20世紀初頭のニューヨークの街角の風景を鮮やかに描写しました。  

『あめりか物語』「夏の海」(277ページ)にはこんな一節があります。「……徐ろに紐育の港口に近く頃には、逸早くかの自由の女神像の高く差し上げた手先に、一点の燈明の輝き初めるのを認めた。続いて、夕波高く漲る彼方に、山脈のように空を限る紐育の建物、ブルックリーンの橋上無数の碇泊船、引つづく波止場波止場の燈火の、一斉に煌き渡るさま日の中に眺めた景色よりも、更に美しく更に意味深く見えるのである」  
 
海から眺めるマンハッタンの夜景は、今日でもとっておきのニューヨークの楽しみ方のひとつです。

主な参考文献
ニューヨークを読む(著/上岡信雄 中央公論新社 2004年)
ニューヨーク文学散歩
 (著/スーザン・エドミストン リンダ・D.シリノ 訳/刈田元司 朝日イブニングニュース 1979年)

あめりか物語(著/永井荷風 岩波書店1952年)