2014年7月11日更新

キューバの素顔、旅情誘う街並みと屈指の先端技術(前編)

医療先進国、有機農業大国、そして世界遺産に登録された旧市街の旅情溢れる町並み……。これらのキーワードから、カリブ海の小国、キューバ共和国を連想する人はどれだけいるでしょう。世界遺産に登録される首都ハバナの旧市街にはスペイン植民地時代のコロニアル風の建造物がずらりと並び、石畳の通りや広場を人々が行き交います。50~60年代の米国車が人々の足として利用され、日常の風景に溶け込んでいます。裏路地から聞こえてくる陽気なキューバ音楽に心が躍り、子どもたちの溢れる笑顔に、ほっと癒されることでしょう。今月号は、フィデル・カストロとチェ・ゲバラによる革命以降のキューバの今とその魅力を紹介します。文豪ヘミングウェイがこよなく愛した、哀愁と情熱が混在する国キューバを旅しませんか。
 
第1ゲバラ邸宅の入口にある彼の肖像
キューバ共和国の誕生  

米国フロリダ半島の南、わずか約145キロメートルに位置するキューバ共和国。人口約1125万人(2011年、国家統計局)、ヨーロッパ系とアフリカ系の民族がそれぞれ25パーセント、混血が50パーセントを占めていると推定されます(外務省)。  

カリブ海の小さな島は、コロンブスによって1492年に“発見”され、16世紀初頭にはスペインの植民地となりました。先住民タイノ人やシボネイ人は、過酷な強制労働や持ち込まれた伝染病などにより、“侵入”から1世紀ほどで、ほぼ全滅したといわれています。その後、鉱山採掘やサトウキビ栽培の労働力は、アフリカからの奴隷が担うことに。19世紀に入ると、アフリカからの黒人奴隷による大規模なサトウキビ・プランテーション産業が大いに発展し、世界最大の砂糖生産地となったのです。  

キューバは、米国を保護国として1902年にスペインの植民地支配から独立を果たしましたが、米資本が様々な分野でキューバ経済を支配し、実質的には米国の植民地ともいえる状態でした。米国市場に依存した経済構造が作られ、貧富の差の大きな社会ができ上がっていきました。1950年代、キューバ人弁護士のフィデル・カストロ(1926年~)やアルゼンチン出身の医師チェ・ゲバラ(1928~67年)らは反政府ゲリラ活動を行い、59年、ついにキューバ革命を成功させて独裁者バチスタを追放。社会主義国家キューバ共和国が誕生したのです。
 
ハバナ旧市街、セントラル広場に立つ英雄ホセ・マルティの像
先進医療と有機農業大国  

「貧困ゆえに医療を受けられずに死んでいく人のいない社会」を築くことは、カストロによるキューバ革命の目標のひとつでした。今、キューバは大変な医療先進国です。国民は、都市部でも農村部でもきめ細かな医療を受けることができます。医者の数は人口168人に1人と、米国の358人に1人の割合よりもずっと多いのが現状です。  

B型肝炎ウイルスなどの治療薬では世界をリードし、米国人ボクサーのモハメド・アリやメキシコの歌手ルーチャ・ビリャら著名人が、難病治療のためキューバに滞在していたことからも、その水準の高さがうかがえます。また、高いバイオテクノロジー技術を誇ることもこの国の自慢です。  
 
国民は医療費ばかりか、教育費も基本的に無料です。カストロは教育水準の向上に積極的で、成人の識字率は20パーセント(60年代初頭)から現在では96.2パーセントまで引き上げられ、中等教育機関への進学率は97パーセント以上と高い水準を維持しています。また、キューバは国際貢献にも非常に積極的で、海外に医者や医療技術者を数千人規模で派遣しているといいます。  

一方、90年代のソ連崩壊はキューバの食糧事情を急激に悪化させました。革命後、大規模農場の90パーセントは国有化され、農耕機械と化学肥料や農薬を大量に使用した近代的な集約農業が営まれていました。輸出品はそのほとんどが砂糖。食糧の多くは輸入に依存していたのです。こうした農業は土壌を劣化させ、その生産性を著しく悪化させました。

こうしたなか起きたソ連消滅による経済危機。トラクターなどの機械を動かすエネルギーは不足し、化学肥料や農薬も入手困難となったのです。国有農場は分割され新しい共同組合農場に再編成されました。サトウキビ畑は他の農作物の栽培地に転用し、ハバナなどの都市ではわずかな空き地を含め、使える土地はほぼすべて農地として活用しました。牛や馬を使って耕し、種を蒔き、苗を植えました。生ゴミやミミズを活用するなどして堆肥を作り、昔ながらの農業の知恵を生かした小規模農業を始めたのです。さらに、農業技術の開発を積極的に行い、新たな技術が開発されると、すぐさま全国の国営農場から個人の小規模農家にまで伝えられるようなネットワークが構築されました。

今、キューバの食糧自給率は大幅にアップし、ハバナの人々は有機栽培の農作物を日々食しています。持続可能な都市型農業の成功国として世界の注目を集め、数々の視察団を受け入れるまでになったのです。

後編はこちらから

 

主な参考文献
キューバへ行きたい(著/板垣真理子 新潮社 2011年)
キューバのヘミングウェイ(著/シロ・ビアンチ・ロス 訳者/後藤雄介 海風書房 1999年)
キューバを知るための52章(編集者/後藤政子 樋口聡 明石書店 2002年)
キューバ 革命と情熱の詩(著/「地球の歩き方」編集室 ダイヤモンド・ビック社 2007年)