2014年5月16日更新

産地で見る茶とその歴史(後編)

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ヨーロッパと茶の出会い  

ヨーロッパと茶の出会いについて、簡単に紹介しましょう。16世紀半ば以降、東洋にやってきた宣教師らが、中国茶や日本の茶文化を高貴なものとして本国に伝えています。しかし、この段階では交易品に茶は含まれていなかったようです。ヨーロッパに茶をもたらしたのは、オランダ人でした。オランダ東インド会社が1610年、日本の平戸や中国で緑茶を買い付け、オランダ・ハーグに運んだのです。その後、数十年で〝東洋の茶(緑茶)〟は貴族や裕福な商人の間で人気となり、たいへん高価な飲み物として取引されたといいます。 
 
ヨーロッパにおける茶(緑茶)の飲用は、1630年代、オランダから隣国のフランスやドイツへと伝わっていきました。イギリスにも同じ頃に茶が伝えられたと考えられていますが、実際に売り出されたのは1657年になってから。ロンドンにある商人や貴族の社交場であったコーヒーハウス「ギャラウェイ」で薬として売られました。薬としての茶が飲料に変わったのは、17世紀も半ばを過ぎた頃のことです。政略結婚でイギリスのチャールズ二世に嫁いだポルトガルのブラガンサ王女キャサリンが、持参金としてボンベイ(インド)の領有権とともに健康を守る薬として茶を持参したことがきっかけです。妃の飲む東洋の茶は、おしゃれな飲み物として王室、貴族の間で瞬く間に広がり、イギリスの上流階級に茶の飲用が浸透し、後に一般家庭でも女性が茶を飲むようになっていきます。  

18世紀に入ると、イギリスは東インド会社を通して茶の輸入を本格化させました。茶の種類は緑茶からボヒー茶(=Bohea Tea、武夷茶)に代わっていきます。ボヒー茶は武夷山麓で作られた半発酵の青茶で、緑茶よりもコクと渋味のある味が好まれました。これは完全発酵した紅茶ではありませんが、水色からブラックティー(=Black Tea)と呼ばれていました。イギリス国内での茶の需要は激増し、その輸入量はわずか60年ほどで200倍近くにも膨れ上がったのです。

アッサム種の“大発見”  

こうしたなか、1823年、〝世紀の大発見〟の朗報がイギリスにもたらされます。インド北東部アッサム地方で、中国を祖先とするジュンポー族が茶の木を持ち、茶を飲用していたことをブルース海軍少佐が知ったのです。その後1840年に初めてアッサム種の紅茶が完成して以来、安価なアッサム茶がイギリスに大量にもたらされました。タンニンを多く含み、香り高くコクのある濃厚な味わいのアッサム種は瞬く間に人気を得たばかりか、アフタヌーンティーの習慣がもたらされ、紅茶はイギリス文化のひとつに定着したのです。

インド産紅茶といえば、アッサムとダージリンです。同じ種類の紅茶でも、茶葉が摘まれた時期によってその味わいは変化します。インド北東部のブラマプトラ河沿岸に広がるアッサム平原は、世界最大の紅茶の産地。6〜7月に摘まれるアッサム・セカンドフラッシュ(2番摘み)はアッサムらしい強いコクと芳醇な香りが特徴で、紅茶アッサムの中で最高級品とされます。アッサムはとくにミルクティーに最適です。  

スリランカのウバ、中国の祁門と並び世界三大紅茶のひとつに数えられるダージリン。インド北東部の東ヒマラヤ山岳地帯、標高2000メートルの高地の急斜面に茶樹が植えられています。茶木はアッサム種ではなく中国種がほとんど。茶園がどの標高に位置するかによって茶葉の風味が異なり、一般的に数種の茶葉をブレンドしてダージリンの品質が保たれています。最高級品はセカンドフラッシュ(5〜6月摘み)で、ストレートティーとして飲むと、ダージリン独特の香りと渋味、コクが楽しめます。モンスーンフラッシュ(7〜8月摘み)やオータムナル(10〜11月の秋摘み)は、順を追って渋味が加わり、ミルクティーとして人気があります。
 
スリランカの紅茶とチャイ  

一方、スリランカでも1872年から紅茶の栽培が始まりました。もともとコーヒー豆の農園だったのが、錆病によって苗が全滅、紅茶栽培に切り替えられました。  

セイロンティーはスリランカ産の紅茶の総称です。ウバ産の茶とともに、スリランカ島内で最も高い標高1600〜1800メートルで栽培される紅茶ヌワラエリヤも、その品質の高さは誰もが認めるところ。茶葉の色は緑茶のように緑色をしていて渋味が強く、それでいて切れ味爽やかな風味が人気です。ストレートティーがおすすめです。1〜2月に摘まれる茶葉が最高級とされます。  

インドやスリランカでは、日常的にチャイという名のとても甘いミルクティーが飲まれています。旅行中、路上でチャイを売る店をたびたび見かけることでしょう。チャイを飲むと、人によっては強烈な甘さだけが口に残り、たとえ小さなカップでも飲み干すことはできないかもしれません。でも、香辛料がたっぷりと入った辛く刺激的なカレーを食べた後に飲む一杯のチャイは、口の中の辛味を落ち着かせ、すっきりとさせてくれます。インドでは北部と南部ではチャイの作り方が異なります。北部では鍋に紅茶の茶葉を入れて煮出し、牛乳や砂糖、ショウガ、スパイスを加えていきます。南部では、布製の袋に茶葉を入れて熱湯をかけて紅茶を作り、温めた牛乳や砂糖、ショウガ、スパイスを入れます。それを頭上高くから別のカップに注ぎ落とします。この作業を何度か繰り返してチャイを作るのです。日本で飲む紅茶とは違ったスパイスの効いたエキゾチックな風味のチャイは、現地でぜひとも味わいたい一品です。