2014年5月9日更新

産地で見る茶とその歴史(前編)

茶は日本はもちろん、世界中で飲用されています。中国に起源を持つ茶は紀元前から飲まれ、古くから健康にもよいという効用が認められていました。17世紀に入り、初めて茶の味を知ったヨーロッパの人々は、東洋の神秘的な飲み物に魅了され、富と権力の象徴として茶を愛飲しました。18世紀にはイギリス人が紅茶に熱狂し、インドやスリランカといった植民地で茶の栽培を積極的に行ったのです。そして今や茶の総生産量の7割は紅茶といわれています。茶葉を摘む時期によっても味や風味が異なる紅茶は、飲む場所や飲み方によってもバラエティ豊かな味を楽しめます。今月号は、「茶」について産地に焦点を当てて紹介します。
 
茶の起源と歴史  

唐代(618〜907年)に陸羽が著した世界最初の茶書『茶経』には、紀元前2700年頃に茶が発見され、魯の周公の時代(紀元前753年)に茶が広まったと記されています。この頃は茶葉を噛むことが主流だったようで、漢代(前202〜後220年)になって飲用の習慣が定着したと考えられています。また、前漢末期の詩人王褒による戯文『僮約』(前59年)からは、当時、四川省では茶が薬用価値のある飲み物として広く一般的に飲用され、売買されていたことが読み取れます。
 
『茶経』が書かれた唐代には、茶は中国全域で飲まれるようになったと考えられ、茶は固形茶として保存されていました。蒸した茶葉を臼でついて固めていたことから餅茶とも呼ばれ、飲む際には餅茶を砕き、それを湯の中に入れていたといいます。時にはネギやショウガも加えていました。日本に茶が伝わったのも8世紀頃、つまり唐代だったとされます。
 
茶葉が用いられるようになったのは、宋代(960〜1279年)になってからです。皇帝の茶は専用の茶園で栽培され、高貴な人々や文人らに愛される飲み物でした。茶葉は蒸して水分を蒸発させたうえで、すり鉢で水を加えてもみ固めたもので、飲む際には粉末にして茶碗に入れ、それから湯を注ぎ、茶筅を使ってかき混ぜるようになりました。明代(1368〜1644年)は茶のルネサンスと呼ばれ、貴族から庶民まで茶を飲む習慣が広がりました。時の皇帝が製造に手間がかかるため固形茶を禁止したため、現代のように茶葉での飲用が中心となっていきます。ジャスミンの花の香りをつけた花茶が生まれたのも明代です。
 
中国茶の6分類+花茶  

諸説あるものの、茶樹の原産地は中国雲南省であるとの見方が多いようです。茶はツバキ科の常緑樹で、雲南省の奥地には茶樹の原生林が広がり、大黒山には樹齢1700年という茶の原木が現存します。
 
中国茶は、その発酵度、形状や色によって分類できます。緑茶、白茶、黄茶、青茶、紅茶、黒茶の6種類です(表参照)。さらに、ジャスミン茶などに代表される花茶があります。菊や薔薇の香り付けがされた茶もあり、リラックス効果があるといわれています。  
 
中国では古くから一般的に緑茶を好んで飲用していますが、日本の緑茶とはその製法が異なります。中国では殺青という方法を使い、鉄鍋などで直接茶葉を炒ることで茶の色、香りや味を保ちます。こうすることで、少し渋めのすっきりとした味わいの緑茶になるのだそう。青茶の代表は烏龍茶で、16世紀末に福建省武夷山麓の低地で作られました。烏龍茶にはいくつかの種類があり、その代表品種が鉄観音です。また、半発酵茶の青茶の種類は100種以上あるとされ、発酵の度合いも15〜70パーセント程度と幅広く、それによって風味や味も異なります。福建省や広東省、そして台湾で限定して生産されている茶葉です。また、黒茶の代表的存在が普洱茶。長期保存ができるため、年代ものは価値も高く、ヴィンテージものとして高値で取引されています。
 
失敗作!?武夷山麓で生まれた紅茶  

日本人にとって、茶といえば緑茶ですが、世界中で最もよく飲まれている茶は紅茶です。全生産量の約7割を占めているともいわれています。    

17世紀にヨーロッパに伝わり、イギリス人を大いに魅了した紅茶は、実は烏龍茶の失敗作から誕生した、いわば偶発的にできた茶だったのです。それまで緑茶を生産していた中国福建省の武夷山麓にある星村鎮桐木村では、1630年、低地の村で作られ、緑茶よりも人気が高く高価な青茶(烏龍茶)を作ろうと試みました。ところが、桐木村は標高が高く気温も低地の村よりも低かったため、青茶に必要な半発酵に適した温度を得ることができませんでした。また、青茶作りでは乾燥の際の火加減などに技術を要したといいます。結果的に桐木村でできた茶は、渋味が烏龍茶よりも強く、水色(すいしょく)が黒みがかった濃い赤色で、煙のような香りのする、とても青茶とは呼べないものでした。これが紅茶のルーツになったともいわれます。この正山小種と名づけられた茶は、近年再び注目されています。


後編はこちらから


主な参考文献

世界の紅茶 400年の歴史と未来(著/磯淵猛 朝日新聞出版 2012年)

茶の世界史 緑茶の文化と紅茶の社会(著/角山栄 中央公論新社 1999年第24版)

 中国の茶文化(著/銭剛 鳥取短期大学研究紀要第48号 2003年)

中国におけるお茶文化の展開とその日本への初期伝来
(著/徐静波 京都大学生涯教育学・図書館情報学研究第10号 2011年)