2013年12月20日更新

中世の城郭都市と人々の暮らし(後編)

アビラの城壁は88の塔を持ちます
城壁と塔が乾いた大地に浮かび上がる
アビラ


イベリア半島は8世紀以降、北アフリカを基盤とするイスラム教勢力に支配され、半島を追われたキリスト教徒によるレコンキスタ(国土回復運動)が約800年にわたり繰り広げられていました。スペイン中央部カスティーリャ・リオン地方の高原都市アビラもまた、早くからイスラムの支配を受けていました。しかし、11世紀末にレオン・カステイーリャ王国のアルフォンソ六世がこの地を奪還。その直後に9年の歳月をかけて88の塔と9つの城門を持つ全長約2・5キロメートル、高さ平均約12メートル、壁の厚さ約3メートルの城壁を築きました。

最大の見どころは完璧なまでに保存された城壁です。城壁のすぐ外側を歩いたり、城壁の上を歩いて町の外に広がる乾いた大地を眺めたり、あるいはアダハ川を越えたところにある小高い丘クワトロ・ポステスから旧市街を遠望したりと、いろいろな角度から数々の戦いの歴史を知るアビラの城郭都市を堪能できます。夜はライトアップされた城壁に囲まれた旧市街が浮かび上がります。

アビラはもともとケルト人によって建造されたとされ、この城壁もケルト時代の石壁が礎になったともいわれます。町中にはケルトの石像らしきものも見られます。

東西に長い長方形をした城郭都市の東にあるアルカサル門は、かつて兵士が出入りし、武器の移動に使われていました。半円形のアーチに刻まれたカトリック両王(フェルナンド二世とイサベル一世)の紋章を見上げつつ、城内に入ると、そこはカルボ・ソテロ広場です。ここから城壁の上に出ることができます。旧市街の中心はビクトリア広場です。城壁内の西側は静かな住宅地。石壁に紋章が刻まれているところはかつての貴族の館です。

アルカサル門から城壁に沿って北上し、この町最古のサン・ビセンテ門まで歩く途中、半円形に張り出している城壁部分があります。高い位置にある小さな窓は、明かり取りと兵士が矢を射るための穴(矢狭間)の役割を兼ねていました。屋上には2段構えの胸壁が巡らされ、そこにはずらりと石落としが備えられています。これは城壁内に建つ12世紀建造の大聖堂(カテドラル)の外壁。つまり大聖堂に入ると真正面にある半円部分(アプス)にあたる場所で、大聖堂の壁が城壁となって、軍事的な弱点を補う工夫が施されているのです。
 
「アドリア海の真珠」ドブロヴニク
三方を城壁で囲んだドブロヴニク

クロアチア南部、紺碧の海に突き出た岬に建つ、城壁で囲まれたドブロヴニク旧市街。全長約2キロメートル、高さ約25メートル、壁の厚さ約3〜6メートルの城壁に守られていたのは、かつてのドブロヴニク共和国です。9世紀に独立後、ビザンティンやヴェネツィア、ハンガリー、オスマン・トルコといった列強の属国、あるいは保護国となっても、基本的には自治権を保ち、自由な交易を行っていました。14〜16世紀には最盛期を迎え、地中海屈指の商港として栄えたのです。

城壁は13世紀に築かれた後、17世紀までの間にいく度となく補強され、圧倒的な存在感を持つ堅固な城塞都市を作り上げました。城壁の四隅には要塞を造り、大砲を備えて、壁の厚さを6メートルにするなど大量の火薬を使った攻撃にも耐えられるようになっています。この点、カルカッソンヌやアビラの中世城郭都市と比べると、やや時代が下ります。

西側にあるピレ門から旧市街へと入りましょう。ピレ門は二重門になっており、門を見上げれば、ドブロヴニクの守護聖人ヴラホの彫像が人々の出入りを見守っています。その両端には、跳ね橋用の細長い溝が残されています。旧市街にはゴシック、ルネサンス、そしてバロックの各様式で建造された、いくつもの教会や修道院、スポンザ宮殿、旧総督邸などが残り、豊かな共和国の姿を今に伝えています。また、ピレ門から城壁の上に出て太陽の日射しを浴び、紺碧のアドリア海の風と潮を感じながらゆっくりと遊歩道を歩き、高い目線から旧市街を間近に見れば、旧市街の別の表情が見られるはずです。

旧市街の背後、スルジ山から城壁に囲まれたドブロヴニクを眺めれば、「アドリア海の真珠」の名にふさわしい印象的な風景、紺碧の海と真っ青な空、城壁に囲まれた旧市街の赤茶色の瓦屋根がすっと目に飛び込んできます。アイルランド出身のノーベル賞受賞劇作家バーナード・ショウの言葉、「この世で天国を求める者はドブロヴニクに行かれよ」に納得される方も多いでしょう。

中世の城郭都市と人々の暮らし(前編)はこちら
 
主な参考文献
ヨーロッパものしり紀行《城と中世都市》編(著/紅山雪夫 新潮社 2004年)
フランスものしり紀行(著/紅山雪夫 新潮社 2008年)
添乗員ヒミツの参考書 魅惑のスペイン(著/紅山雪夫 新潮社 2009年)
旅名人ブックス クロアチア/スロヴェニア/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(著/外山純子 中島賢一 日系BP企画 2007年)