2018年10月30日更新

マヤ探検記

密林の奥に眠る 未知なる遺跡を求めて

子どもの頃に『ツタンカーメン王の秘密』(ハワード・カーター)を読み胸を躍らせ、その後しばらくスウェン・ヘディンの『さまよえる湖』やシュリーマンの『古代への情熱』などを読みあさったことを覚えています。彼らの活躍した19世紀は、西欧世界から多くの人々が世界の隅々へと繰り出した時代。世界地図の空白は新たな発見でどんどん埋め尽くされていきました。

今月ご紹介するのは、カーターやヘディン、シュリーマンよりもう少し早い19世紀初頭に生まれ、マヤ遺跡の探検・研究で名を馳せたジョン・ロイド・スティーヴンズとフレデリック・キャザウッドのノンフィクションです。マヤ考古学の先駆けと位置づけられる彼らですが、日本では専門家以外にはほぼ無名といってよいでしょう。二人の著書がアメリカで出版されたのは19世紀ですが、邦訳が出たのが2010年のことですので、知られていないのも仕方がありません。

若い頃からギリシャや中東などを旅し、古代世界に魅せられてきたアメリカ人のスティーブンズと英国人画家キャザウッドは、わずかな装備だけを持ち、未知なる遺跡を求めて中央アメリカの熱帯雨林の中へ。猛烈な暑さと湿気、止むことなく襲ってくるハエや蚊、マラリアや黄熱病の苦しみ。さらに現地の不安定な政情も見極めつつという、過酷な環境に耐えながら、コパンやキリグア、パレンケ、ウシュマル、チチェン・イツァ遺跡などを調査。その成果をまとめた探検記は、6カ国語に翻訳されるベストセラーとなりました。スティーブンズの生き生きとした文章に、まだ実用的なカメラがない時代、特殊な投影装置を使って描かれたキャザウッドの挿絵がすばらしく、むしろ写真よりも豊かな表情で古代の息吹を伝えてくれます。何より、マヤ遺跡がこの地の土着の文明の精華であることを示したことこそ最大の功績であり、スティーブンズは「マヤ考古学の父」と呼ばれることとなりました。

スティーブンズらが苦難の末辿りついた密林の奥も、今や快適に訪ねられる時代に。皆様も現地を訪れる際には、本書で先人の足跡にふれてみてはいかがでしょうか。


『マヤ探検記 上下』 著/ウィリアム・カールセン 訳/森 夏樹 青土社 各2,800円+税