2020年7月30日更新

第18回 フランス・コールマール ウンターリンデン美術館の「イーゼンハイムの祭壇画」

 

コールマールとウンターリンデン博物館

ウンターリンデン博物館
コールマールはフランス・アルザス地方の美しい街です。旧市街には木骨組みの建物が並び、アルザス風の街並みが旅人を魅了します。

しかし、この町で絶対に見逃してはならないものがウンターリンデン美術館にある「イーゼンハイムの祭壇画」です。これはドイツの画家マティアス・グリューネヴァルトの作品で、彼の作品中最大の大きさ、かつ最高傑作と言われています。製作は1511年~1515年頃です。

 

イーゼンハイムの祭壇画 キリストの磔刑図

もともと、イーゼンハイムにある聖アントニウス会修道院付属施療院の礼拝堂に飾られるために描かれた開閉式の多翼祭壇画でした。この施療院はペスト患者の治療を行うことで知られていました。現在ではウンターリンデン博物館に納められ、誰でも見学することができます。この祭壇画は三重構造になり、中央のパネルの扉を開閉することによって、3つの場面を見ることができます。

すべてを閉じた状態の第一の場面が最も有名な「キリストの磔刑図」です。左のパネルにはペスト患者の守護聖人セバスティアヌス、右のパネルにはこの修道院の守護聖人聖アントニウスが、下のパネルにはピエタが描かれています。そして中央に描かれたのが凄惨なキリストの磔刑図です。キリストの左には聖母マリアが使徒ヨハネの腕の中で悲しみのあまり気を失い、その近くでマグダレナのマリアが必死に祈りを捧げています。右側は洗礼者ヨハネが復活を示唆しています。

キリストは暗い背景に満身創痍の姿で描かれ、手足は死後硬直で捻じれ、身体中に青黒く変色した死斑が見られます。キリストの磔刑図は中世には象徴的に、近世以降は美化された姿で描かれることがほとんどですが、この祭壇画ではその常識を覆し、本当の死者の姿を写実的に生々しく描いたのです。それ故、この絵画を見た施療院の人々は恐怖に慄きながらも、右側の洗礼者ヨハネと仔羊の姿を見て自らの受難とキリストの死を重ね合わせ、復活、つまり治癒を祈ったのでしょう。
「イーゼンハイムの祭壇画」キリストの磔刑図

「受胎告知」、「キリスト降誕」、「キリストの復活」

一枚の扉を閉じた第二の場面には「受胎告知」、「キリスト降誕」、「キリストの復活」が描かれていますが、これは日曜日と教会の祝日に開かれました。 第三の場面はニコラウス・ハーゲナウアーの手による木彫りの彫刻が設置されています。これは守護聖人アントニウスに捧げられたもので、守護聖人の祝日にのみ開かれたそうです。
「イーゼンハイムの祭壇画」受胎告知

この作品は見る人すべてに強い畏怖の念を抱かせ、作品の前で呆然と立ち尽くすこと間違いありません。グリューネヴァルトはドイツ・ルネッサンスの巨匠デューラーと同世代ですが、彼の作品は「ルネッサンス」とはかけ離れ、末期ゴシックの画家と位置付けることができるでしょう。コールマールを訪れた際には必ずご覧ください。


次回は第19回 サウジアラビア・首都リヤド マスマク城塞をご紹介します。お楽しみに!
次回更新予定:8月5日(水)

東京支店:中屋雅之


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