2016年3月4日更新

スペインの食文化(前編)― 伝統に革新を加えた料理「ヌエバ・コシーナ」に世界が注目

サン・セバスチャン
バスクとカタルーニャ 若きシェフが起こした波    

今、和食は世界的なブームとなっていますが、そのずっと以前から世界の注目を集めているのが、スペイン料理です。  

「美食の国」の中でも特に重要な発信地の役割を果たしているのは、スペイン北部の自治領バスクと地中 海に面したカタルーニャ州。ミシュラン2014年版で最高位に格付けされているスペインのレストラン8軒のうち、2軒がカタルーニャ地方、4軒がバスクにあります。なかでも際立っているのが、このうち2軒を擁するバスク地方の小都市サン・セバスチャンです。人口19万人に満たない街の規模を考えると驚くべきことといえるでしょう。  
 
パエリア (c)スペイン政府観光局
北スペインの知る人ぞ知るリゾート地だったこの街が、世界的な美食の街に発展するきっかけは1970年代後半にありました。若き見習いシェフ、ファン・ マリ・アルサックが、フランスのヌーベル・キュイジーヌ(フランス語で「新しい料理」)と出会い、若いシェフたちとともに、バスク版の料理に取り組みます。

地元の特産品を生かし、新しい調理法を果敢に取り入れた彼らの独創的な料理は、やがて「ヌエバ・コシーナ」(スペイン語で「新しい料理」)と呼ばれるようになり、ヌーベル・キュイジーヌに代わる次世代の世界的潮流となります。ゼラチンや寒天を使って素材を好きな形に固めたり、食材を泡状にして新しい食感を生み出したり、真空で調理したりといった新しい調理方法が人気となります。科学的根拠に基づき調理する分子料理も注目を集めました。

串に刺したつまみから、独創性溢れる小皿料理に発展した名物ピンチョスの流行も、サン・セバスチャンが拠点となっています。  
サン・パウの料理(イメージ)
一方のカタルーニャ地方には、現在のスペイン料理人気を語るうえで欠かせないレストランがあります。人気絶頂の11年に閉店した伝説のレストラン「エル・ブジ」です。

カラ・モン・ジョイという風光明媚な入り江に立つ「エル・ブジ」は、1997年ミシュランの三ツ星に認定され、料理界のアカデミー賞ともいわれる「世界ベストレストラン50」でも1位を5度獲得。わずか45席の予約は常に満席という人気店でした。料理長フェラン・アドリアは、先に述べた新しい調理法の数々を開発、発展させた人物としても知られています。閉店の理由についてアドリア・シェフは、「料理の新しいアイデアを国際的に広めるため」と語り、その言葉どおり今年、博物館を兼ねた料理研究所をオープンする予定です。  

カタルーニャには、このほかにも人気店が点在しています。たとえば、サン・ポール・デ・マル村生まれのオーナーシェフ、カルメ・ルスカイエーダが88年に地元にオープンした「サン・パウ」。カタルーニャの伝統料理に独特の感性を加えた創造性豊かな料理はすぐに評判となり、開業からわずか2年半でミシュランの星を獲得。肉や野菜とフルーツ、魚料理と肉でとった スープなど、意外な組み合わせで楽しませてくれる料理は世界のゲストに愛されています。スペイン国内にも支店を出すことを拒んできたこの名店が、04年、東京・日本橋に初の支店を開いたことは大きな話題となったので、記憶している人も多いでしょう。

後編はこちら

 
主な参考文献
『世界の食文化14スペイン』(著/立石博高著 農文協 2007年)
『スペインの竃から 美味しく読むスペイン料理の歴史』(著/渡辺万里 現代書館 2010年)
『人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか―スペイン サン・セバスチャンの奇跡』(著/高城剛 祥伝社新書 2012年)