視察レポート

視察レポート

2024年08月30日

【視察レポート】白人王が治めた「サラワク」を訪ねて

サラワク王国視察チーム:菊間陽介 吉田義和

ボルネオの白人王に魅せられて

今回「サラワク」に興味を持ったのは、一冊の本、三浦暁子さんの『ボルネオの白きラジャ ジェームズ・ブルックの生涯』を読んだことです。これまで多くの東南アジアの地域を訪れ、ご紹介してきましたが、サラワクは未訪の地。そんな場所に「植民地」ではなく、異邦人である白人が友好的に王に任ぜられたという歴史は、大変興味深いものでした。

 英国領インドのベナレスに生まれたジェームズ・ブルックは親の遺産を利用して夢だった東南アジアへの航海に乗り出します。その途上、訪れたサラワクの地で地元の部族「ダヤク」の争いを収め、現地のラジャ(王)から信任を得ます。そしてついにはホワイト・ラジャ(白人王)の地位を得るのです。白人王の地位は形だけではなく、海賊や華人などの反乱など統治には困難を極めながらもブルック王朝として3代100年にわたって続き、サラワクは白人、華人、マレー人、ダヤク(先住民)という多様な人々の民族共生が続く独特な国として繁栄します。

 現代に目を移すと、かつてのサラワク王国は東マレーシア、ボルネオ島の一部「サラワク州」となっています。州都クチンは現在クアラルンプール・イポーに次ぐマレーシア第3の町で、かつてサラワク王国の都として栄えた地とのこと。ブルック時代の建築も多く残っていると知り、物語の舞台にぜひ行ってみたいと、歴史好きの菊間・吉田の2名で早速クチンへと旅立ちました。

サラワク王国の都クチンで体現した「民族共生」

 今回クチンへはクアラルンプール経由で訪れましたが、面白いのは二重の入国があること。クアラルンプールで入国検査を終え、国内線でクチンへと入るのですが、クチンでも再度イミグレーションがあり、パスポートのスタンプが二重に押されます。まるでサラワクは「別の国だ」と主張しているかのようで、かつての「サラワク王国」を知って来た私たちは入境から期待を高めました。

 空港から20分ほど車で走ると、クチンの中心街へ。マレーシア第三の町と聞いてきたものの、大きなビルなどは中心部には少なく、落ち着いた印象です。聞けば中心部は景観保護のため高層ビルなどの建築が制限されているとのこと。唯一大きな建築が今回宿泊した「ザ・ウォーターフロント・ホテル」です。このホテルの立地が、私たちの「クチン」の印象を大きく決定づけました。到着は夜でしたが、早速街の散策へ。ホテルのエントランスを出ると、目の前には裁判所や郵便局など英国風のコロニアル建築が並んでおり、ブルック王朝時代の面影を早速感じます。しかし、そのすぐ隣には中華街の入口を示す「親善門」が並び、華人のショップハウスが軒を連ねています。サラワク川沿いに出ると、英国式の砦の近くにモスク、そしてマレーの高床式の家…と、ほんの10分の散策で様々な民族の暮らしの姿に出会ったのです。これまで東南アジアの様々な町を歩いてきましたが、こんなにもコンパクトに、特徴的な街並みが隣り合っている場所は見たことがありませんでした。

旧市街中心に建つザ・ウォーターフロントホテル。手前はブルック王朝時代の軍事施設ラウンドタワー1886(現在はレストラン)
ホテルの向かいはチャイナタウンの入口、親善門は夜もライトアップされ、カフェやバーなどで人が憩います

開けて翌朝にも早速散歩。シックにライトアップされた夜とは違い、旧裁判所の堂々たる建築や、重なり合うように建つ華人のショップハウスがはっきりと目に写り、町の魅力を再発見することとなりました。日中の観光でももちろんご案内しますが、ゆっくり歩いても30分で1周できますので、ぜひ朝、夕と時間をかえて散歩していただくことをお勧めします。

ホテルから見たクチン旧市街。
カラフルなショップハウスが並ぶグランドバザール

サラワクの歴史を知る1日

今回事前に想定していた企画でサラワクでの滞在は4泊。クチンは2~3泊はよいのでは?というのが訪問前のイメージでしたが、視察の結果はクチンは4連泊で十分楽しめる。というものでした。実際私たちは余裕をもって3連泊で視察を行いましたが、2人とも「もうちょっと居たかった」というのが正直な感想です。まずは訪問前から興味のあったサラワク王国の歴史を知ろうと、サラワク博物館へと出かけました。2022年にオープンしたマレーシア最大の博物館です。その名の通り広大な敷地を持ち、サラワクに暮らす様々な民族(ビダウ・イバン・ウルなど)の伝統工芸や生活についての展示や、ブルック時代から日本時代の歴史展示など、興味深いものが多く、想定外に半日ちかくも見学にかけてしまいました。手や体を使って楽しむインタラクティブな展示も随所にあり、五感で楽しみながら歴史・文化に触れることができます。1階にあるミュージアムショップやカフェも洗練されており、早めに見学を終えた方にはぜひ立ち寄ってほしいね。と意見が一致。ツアーでも見学に少し時間の余裕を設けているので、ぜひカフェやショップでのひとときも楽しんでいただきたいです。

博物館の5階にはサラワクに住む民族の伝統工芸の数々が並びます。
ミュージアムカフェは見学後のひといきに最適です。
2022年オープンのサラワク博物館はマレーシア最大の博物館。手前の柱は先住民族の墓の支柱として利用されたもの

午後はサラワク川の対岸にあるマルゲリータ砦へ。ブルック王朝2代目のチャールズ・ブルックが海賊対策のために造った4階建ての砦で、現在はブルック王朝3代の功績を展示するブルック・ギャラリーとなっています。イギリスからボルネオに渡ったブルック一族の暮らしぶりが良くわかります。ひときわ目を引いたのがブルック時代の国旗です。黄色の地に赤・黒の十字、中央に王冠が描かれていますが、赤が華人、黒がダヤク(先住民)、黄がマレー人を表しているとのこと。国旗からもブルック一族の民族への想いが伝わってきます。現在のサラワク州旗も、デザインは変わりましたが同じカラーリングが採用されています。その後、旧王宮アスタナで写真ストップ。英国のマナーハウスを模して建てられたという建築で、現在は州の元首公邸として利用されています。ツアーでは最初にマルゲリータ砦、アスタナと巡ってブルック王朝に理解を深めていただき、午後に博物館を見ることで、よりサラワクの歴史を知っていただけるよう現地で打ち合わせてきました。

黄がマレー人、赤が華人、黒がダヤク(先住民)を表しているサラワク王国の国旗
2代国王チャールズ・ブルックが妻の名前を冠して造った砦は今も健在

川から人々の暮らしと歴史を眺める

夕刻にはサラワク川のリバークルーズに乗船。古くからサラワク王国はこのサラワク川を利用して交易が行われ、町に活気をもたらしてきました。1日歴史を知った後に、川から街を見るとどうなのかなと思い「試しに乗ってみよう」と気軽な気持ちで乗船したのですが、これがまたとても良い体験で、早速ツアーの行程にも加えました。船は2階建てで2階がテラスになっています。屋外ですが、夕刻の川の上なので風が適度に心地よく、見晴らしも上々。クチンのウォーターフロントを出航したクルーズ船は、日中に見たアスタナやマルゲリータ砦、グランドバザールなどを見ながら上流へと進みます。町が途切れると川沿いにはマレー伝統の高床住居の村が現れたりと、のどかな風情。ジェームズ・ブルックもこんな景色を眺めたのかと感慨深い船でのひとときです。折り返しからは船上でサラワクの民族舞踊も披露され、あっという間の90分のクルーズを堪能しました。

サラワクリバークルーズにて。視察者の菊間・吉田
クルーズ船に手を振る村の子どもたち

密林に生きる人々と、森の賢人を訪ねる

クチン滞在2日目は、車で郊外へ。マレーシア・インドネシア・ブルネイと3国の国境が存在するボルネオ島で、サラワクの大部分はインドネシアと国境を接しています。その殆どが密林。開発の手が及んでいないエリアで、初日の歴史的な世界とはまた違った自然と文化に出会えます。まずはクチンから南へ30分。セメンゴ・ワイルドライフ・センターを訪れました。ここは絶滅の危機に瀕するオランウータンを半野生の状態で保護する施設です。広大な密林で自由に暮らすオランウータン。通常はその姿を見るのは困難ですが、朝夕2回のみ餌付け場までのトレイルが公開され、運が良ければ間近にその姿を見ることができます。今回訪問した際は樹上で食事をする3頭のオランウータンと出会いました。木の幹にヤシの実を叩いて割り、中の果肉を落ち着いて食べる様子は、森の(ウータン)賢人(オラン)と言われる貫録を見せてくれました。

セメンゴ・ワイルドライフ・センターのオランウータン
自然の中でのびのびと過ごしていました。

その後、インドネシア国境に近いアナ・ライス村へ。ここはビダユ族が暮らす山間の集落です。ボルネオの民族集落の特徴は「ロングハウス」と言われるいわゆる長屋形式の家屋で、ワールド航空サービスでもお隣のブルネイの旅でイバン族のロングハウスによくご案内しています。イバンとビダユのロングハウスの大きな違いは、イバンが廊下の様に細長い共用リビングを持つのに対し、ビダユはそれぞれの家の前庭にあたる部分に大きなバルコニーを設け、その部分を他の家とつなげて共有するというところ。アナ・ライス村も一度村に入ると各家庭のバルコニー伝いに屋敷を巡ることができる面白い構造。中央には首狩りの風習を今に伝えるヘッドハウスなる集会所も残されています。食事をご馳走になった家族に家の中も見せていただきました。家の壁にはたくさんの家族写真が飾られ、その上にはキリスト教の祭壇が。聞くとビダユ族の多くがキリスト教徒、サラワク州全体でもキリスト教徒の割合が最も多いそう。市内にもモスクと同数以上の教会があり、ブルックはじめヨーロッパの影響を宗教にも感じます。間口は狭いですが、家は2階建てで2階が広く、10名ほどのゲストをホームステイで迎えることもあるとのこと。外観だけでは知ることのできない民族の生活も垣間見ることができました。ツアーでは民家訪問やランチはじめ、民族舞踊の披露などもお願いしましたので、ぜひお楽しみに。

アナ・ライス村で民族料理をいただく菊間・吉田
ビダユ族の家庭にはキリスト教の祭壇がありました。
アナ・ライス村のロングハウスは前庭のバルコニーが延々とつながる独特なつくり
民族との出会いも楽しみです。(視察時は文化村にて)

サラワクの名物料理から洋食まで 多彩な料理

民族が独特の文化を育んできたサラワクには、ここにしかない名物料理も豊富です。また、近年はイタリアやオーストラリアなど欧米諸国からの観光客も増え、レベルの高い洋食レストランも増えてきました。視察した菊間・吉田は食べること1日5食、自らの胃と舌で確かめ、クチンでご紹介したいレストランやメニューを厳選してきました。

①神の朝食「サラワク・ラクサ」

オバマ大統領とも行動を共にしたアメリカ人美食家アンソニー・ボーディンが「神の朝食」と絶賛したサラワク・ラクサ。地元の人々は朝食として食べるため、人気店は午前10時頃には閉店してしまいます。今回は、朝食時、ご希望の方を地元の人気店にご案内します。

神の朝食と言われたサラワク・ラクサは地元で人気の店にご案内します

②これぞ地元の屋台飯「コロ・ミー」

サラワクっ子定番の軽食「コロ・ミー」

地元のマーケットなどで軽食として好まれているのが、まぜ麺のようなスタイルのコロ・ミーです。甘めのレッド・コロ・ミーや汁なしタンタンメンの様な通常のコロ・ミーがあり、どちらも食べやすい味です。

③サラワク先住民料理

魚を酢漬けにした「ウマイ」はその名の通り日本人の口に合う味

密林に住む先住民が受け継いできた伝統料理は、素朴ながらとても美味。この地方特産の山菜「ミディン」やトーチジンジャーを使った料理や、竹の中に食材を入れて蒸し焼きにしたバンブーチキン。魚の酢漬け「ウマイ」は日本人の口にも合います。(かつて日本人が旨いといった事が語源とか)

④質の高い洋食レストラン

ツアー中2回の夕食は洋食をご用意しました。利用する「ROUND TOWER1886」「ROOTS」ともにブルック時代の英国建築を改装した落ち着いた佇まいのレストランです。自由食の日には、人気のレストラン「GRANARY」がお勧めです。手軽なマレー料理もありますが、マレーと洋食が一体化したラクサ・ピザが美味でした。

かつて軍事施設や州議会庁舎として利用されたラウンドタワー1886
GRANARY名物のラクサ・ピザ

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