町並み百選

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2021年03月18日

ベストオブ重伝建・妻籠(つまご)の街並み

プランニング事業本部 吉田義和

現在、全国で123の街が登録されている「重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)」。中でも、「ベストオブ重伝建」はどこか、と言われれば、私は妻籠を挙げます。妻籠は中山道を日本橋から出発し、板橋宿から数えて42番目の宿場町。飯田へと抜ける伊那路との追分にあたり、古くから賑わいを見せていました。今回は中山道のハイライト、妻籠をご紹介します。

重伝建「第一号」妻籠

妻籠の街並みが「美しい」と感じる理由は、その統一感でしょう。様々な古い町並みを歩いていると、急に近代的な建築が現れ、現実に引き戻されることが多々あります。それに対し、妻籠を歩くと、どこの街にもある自動販売機やポスト、電柱など近代的な街に当たり前にあるものが見当たりません。ただ歩いていると気づかないその街並みの陰には、妻籠の人々の隠れた努力があるのです。都市部の近代化と地方の過疎化が急速に進んだ1970年代、妻籠の人々は、「自分たちの街並みは観光資源になる」と判断し、早くから伝統の街並みを少しずつ整え、維持していきました。その取り組みは長野県、そして国にも認められ、1976年に重伝建の第一号に登録されました。

妻籠の郵便ポストは昔の「集信箱」を模して造られています。
かつて旅人が利用した簡易宿(木賃宿)の内部もそのままに、江戸の宿場の様子を感じることができます。

妻籠散歩は朝がおすすめ

島崎藤村の『夜明け前』の冒頭文として知られる「木曽路はすべて山の中」。中津川や塩尻から木曽路へと入ると、急に両側の山並みが迫り、「木曽路に入ったんだ」と改めて実感します。妻籠は宿場の規模こそ奈良井に譲りますが、山間の渓谷と宿場の風情の調和が実に素晴らしく、町に入ると一瞬で江戸の旅人気分を味わえるのが魅力です。もちろん代表的な「日本の風景」ともいえる妻籠は年々訪日観光客が増え、近年は京都などと同様日中は大勢の観光客で賑わう訪問地でしたが、訪日客がほぼいない状態の昨年はかつての落ち着きを取り戻しています。特に朝の妻籠宿は別格。山深い木曽路に日が差し込み始める頃、旅籠の灯篭がうっすらと輝き、木造の家屋からは木戸を開ける音や庭を掃く生活音が聞こえ、至福の旅時間を過ごすことができます。

朝の妻籠宿。観光客のいない時間はまさに江戸時代にタイムスリップしたかのよう。ワールド航空では、なるべく静かな時間帯に妻籠を歩けるよう、極力妻籠宿に近い宿を確保しています。
妻籠宿の宿「松代屋」現在も旅館として旅人をもてなしています。
妻籠から馬籠へと続く旧中山道の峠道は人気のハイキングルートにもなっています。

「本陣」と「脇本陣」って?宿場用語の基礎知識

旧街道を辿ると必ず各宿場に登場するのが「本陣」と「脇本陣」。宿場町を辿る際には、「宿場用語」を知っておくと散策が楽しくなります。役立つ用語を少しだけご案内いたします。

■本陣…本陣は天皇のおつかいである勅使や、公家、大名、公用で旅をする幕府の役人などが宿泊するための施設です。宿泊のほか、門や玄関、書院などを造ることが許されていました。本陣の建物が失われた宿場でも、豪壮な門や書院が移築され残されているケースも多くあります。身分の高い武士や役人しか泊まれないため、経営的には苦しかったとも言われています。

■脇本陣…本陣の予備として造られた宿泊施設です。他の旅籠よりも格上ですが、本陣のように大名や公家など身分の高い役人だけでなく、裕福な商人など一般の旅人も宿泊が可能でした。参勤交代などは予め本陣に泊まる大名や役人が重ならないよう調整しますが、天候や川留めなどで重なってしまった場合は、大名の格によって本陣から脇本陣に移らなければならない大名もいたそうです。

■旅籠と木賃宿…旅人が宿泊する際、鎌倉時代まではいわゆる「野宿」が多かったのですが、その後自炊するための薪代のみを支払って宿泊する簡易宿が生まれました。それが木(薪)賃を払う宿ということで木賃宿と呼ばれました。その後に生まれたのが旅籠(はたご)です。はたは馬の餌、ごは籠の意味で、泊まれば馬の餌も旅人の食事も提供される宿、という意味で、1泊2食の現在の旅館の原型となりました。

■高札場…幕府や領主が決めた法度や掟書を掲げた場所のことで、主に宿場の入口に置かれていました。高札場に庶民が集まる光景は、時代劇などでもよく見る光景かと思います。5代将軍綱吉の有名な「生類憐みの令」などが掲げられたのもここ高札場です。

妻籠はこういった宿場の原型を知るのには最適な宿場町です。訪れた際はぜひ江戸の旅人の街の風景をゆっくりとお楽しみください。

中山道と東海道が交わる草津宿の本陣跡ⓒびわこビジターズビューロー
妻籠宿の脇本陣は歴史資料館になっています
恵那大井宿に残る高札場

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