町並み百選

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2021年07月08日

アートと伝統が融合する町 金沢 その②

プランニング事業本部 吉田義和

先週に続き、金沢の町をご紹介いたします。コラムでも活躍中の会長菊間は、金沢を評して「金沢は日本の町で最もヨーロッパの町に似ている。風情ある街並みが残り、伝統的なもの、アーティスティックな場所、食すべてがコンパクトに融合している。」と表現していました。確かに、長町武家屋敷の伝統的な街並みを少し歩くと、建築自体がモダンアートの21世紀美術館が現れたり、静かな寺町の一角にGINZA SIXなどを手掛けた建築家、谷口吉生さんの建築館があったりと、古い町並みと近代のアートな文化が合わさり、不思議な空間を作り出しています。江戸時代の景観や近代アートは、一見「非日常」に感じられますが、金沢ではそれが日常空間に溶け込んでいる、そこがこの町をより一層魅力的に感じさせるのかもしれません。

好みに応じて楽しめる「アートな」金沢さんぽ

金沢の町には実に多くの博物館や美術館があります。伝統文化から工芸、建築、歴史、近代アート。様々な分野で日本を代表するコレクションが揃うアートな町です。最近では、昨年の「国立工芸館」移転オープンが大きな話題となりました。1977年の開館以来、40年以上にわたり皇居の隣に位置していた東京国立近代美術館工芸館が、石川県の誘致に応じる形で「国立工芸館」として移転。日本の工芸を世界に発信する拠点として、金沢の大きな目玉となっています。内部は期間毎に日本の工芸品の粋を展示していますが、かつての金沢偕行社(陸軍の倶楽部)を改装した建築そのものも見応えがあります。国立工芸館のある周辺は博物館、美術館のコンプレックスとなっており、前田家ゆかりの国宝、野々村仁清の「色絵雉香炉」を収蔵する石川県立美術館や、加賀藩の重臣、本多家ゆかりの文物を展示する加賀本多博物館、石川県立歴史博物館が並んでいます。ここだけで半日のんびりと過ごすのも楽しいものです。

昨年移転オープンした国立工芸館
野々村仁清作の国宝「色絵雉香炉」ⓒ石川県立美術館
加賀本多博物館は本多家所蔵の文物を多数展示
旧陸軍の倉庫を改装した赤レンガ建築の歴史博物館

美術館、博物館コンプレックスから僅か300mのところにあるのが、金沢のアートの中で或る意味異質な存在感を放つ「21世紀美術館」があります。初代館長はシカゴ美術館など海外の美術館で学芸員を務めた蓑豊さん。2代目館長は瀬戸内の小さな島、直島をベネッセと共に「アートの島」として全国的な訪問地にした秋元雄史さんです。開館当初から「町に開かれた美術館」をコンセプトに、町の中心部に造られました。透明の不思議な形状をした丸い建築の周囲には芝生が張られ、制服を来た学生たちや家族連れが買物をしながらぶらぶらと歩いている姿を見ると、まるで外国の町に迷い込んだかのような錯覚を覚えます。もうひとつのお勧めは鈴木大拙館。金沢出身の世界的仏教哲学者である鈴木大拙を記念して建てられた建築は、谷口吉生さんの設計。静寂のなかゆっくりと物思いにふけることができる上質な空間です。

まるでUFOのような特徴的な外観の21世紀美術館
静かな環境の鈴木大拙美術館(谷口吉生建築)

もうひとつ、アートな散策を楽しめる界隈が金沢の中心、香林坊の南に位置する長町です。かつて武家屋敷が並ぶ町家街であった長町には、現在も武家屋敷が残りますが、その一角に「老舗記念館」があります。江戸時代からの薬屋であった「中屋薬舗」の建物を移築したもので、内部には金沢の老舗の文物や、金沢の伝統的な手工芸が展示されています。中でも花嫁のれんはぜひ見てみただきたいもの。「花嫁のれん」は幕末から明治時代から伝わる加賀藩で始まった婚礼の風習の一つで、嫁入りの時に嫁ぎ先の仏間に掛けられ、花嫁がくぐるのれんです。 加賀友禅で仕立てられた美しいのれんは、この地方でしかご覧いただけない貴重なものです。

金沢 老舗博物館
加賀の嫁入り道具の定番「花嫁のれん」

ローカル鉄道での小旅行もおすすめです

北陸新幹線や北陸本線が走る北陸随一の駅「金沢駅」そんな金沢にもうひとつの小さな「金沢駅」があります。金沢市の町はずれ、にし茶屋街の奥に続く住宅街を抜けるとある「野市駅」です。ここは北陸鉄道の金沢市の始発駅。素朴な外観の駅舎から単線のローカル鉄道が「鶴来駅」まで出ています。車内はローカル色満載で、天井に扇風機が付いている昔ながらの車両。各駅停車の鉄道に30分揺られると、大都市金沢の喧噪が嘘のような田園風景が広がります。終点の鶴来駅は白山信仰の拠点として栄えた町。その先には白山比咩(ひめ)神社が控えます。白山は信仰の対象として、古くから知られた霊峰で、金沢の町ももともとは白山の信仰と共に発展した町。鶴来は「金沢の歴史の発祥地」ともいえる場所なのです。今週月曜のコラム「白山鶴来町の菊姫大吟醸」はここ鶴来産。金沢の滞在で少し時間のある時は、半日ほどで楽しめる小旅行、鶴来を訪れてはいかがでしょうか。

ローカル色の強い北陸鉄道
郷愁をそそる鶴来駅
全国の白山信仰の本山 白山比咩神社 ⓒ石川県観光協会
北鉄の野町駅はにし茶屋街からすぐ

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