視察レポート

視察レポート

2026年01月05日

【視察レポート】美山荘

<2025年12月4日(木) 視察者:大阪支店 柴尾祐樹、中村美香>

前日の夜から急に冷え込んだ12月4日(木)、大阪から車で片道3時間かけて美山荘を訪ねました。目的は、「日本旅百景」の人気シリーズ「地方の美食学+旅」でご好評いただいている、美山荘の女将で2023年にミシュラン・サービス・アワードを受賞した中東佐知子氏へのインタビューです。

京都中心部を北上するにつれ、秋景色から雪景色へと移り変わります。今年初雪ということもあり、美山荘に到着した際には、雪景色が特別な雰囲気を醸し出していました。静寂の中に佇む美山荘は、まるで別世界に足を踏み入れたかのようで、期待が膨らみました。

雪景色の中ポツンと佇む美山荘
窓から見える雪景色が絵になり風情がありました

ワクワク感が止まらない 美山荘の摘草料理

美山荘は、明治創業の料理旅館です。山に囲まれ、川のせせらぎが心を癒し、日本の四季を肌で感じることのできる心落ち着く空間です。女将さんの挨拶からはじまり、四季折々の山川の恵みに工夫を凝らした料理が運ばれてきます。見た目、香り、味、そして食感で楽しむことができ、初めて口にする食材や、想像できない味にワクワク感が止まりませんでした。料理が運ばれてくる間は景色を楽しみ、気さくに話してくれる女将さんや給仕さんとの会話や食材や料理の説明に驚きや発見もありました。美味しい食事を堪能しただけではなく、美山荘に着いて広がる景観から始まり、食事を終えて帰るまでの時間が何とも言えぬ満足感に満たされていました。

はじめは寒雀から。初めて雀をいただきました
九条ネギと共にいただく猪鍋。身体が芯から温まりました
海老芋ごはん
むかご、栃もちこんにゃく、泥鰌(ドジョウ)など1品1品が楽しい「八寸」(取材時撮影)
献立は女将自らしたためたもの

美山荘 女将 中東佐知子氏インタビュー

●摘草料理とは?

美山荘の代名詞でもある「摘草(つみくさ)料理」について、その成り立ちを伺いました。美山荘は、隣接する大悲山峰定寺(だいひざんぶじょうじ)の宿坊として始まりました。この地は鳥羽上皇の勅願地であり、平安時代には「北の御所」とも呼ばれ、平清盛が本堂の現場監督をしたという歴史ある場所。摘草料理というのは、単に山菜を生活の糧として採るのではなく、かつて大宮人が野に出て若菜を摘んだような、文化や遊びの心を表現しています。そこに茶懐石の流れや茶の湯の心を汲み入れ、独自の料理としてもてなしの形を作ってきました。

美山荘の伝統ともてなしの心を受け継ぐ中東さん

●四季折々の自然の恵みと美山荘の料理

春は摘草そのもの、夏は鮎、秋はキノコ、冬は狩猟肉と根菜といった旬があります。ただ、今の料理長はそれだけに頼らず、古い文献からヒントを得て料理を創作することもあります。例えば、室町時代の文献にある「尾花粥(おばながゆ)」です。ススキ(尾花)を炭にして真っ黒なお粥にするのですが、昔の人は夏の終わりにこれを食べて、夏の疲れが出る時期の胃腸を労ったそうです。なぜ炭を食べるのかといった物語も含めて、お客様には発見や体験を楽しんでいただいています。

●2023年ミシュラン・サービス・アワードを受賞

実は最初、授賞式への出席依頼をいただいた時は、繁忙期で店を離れられないため辞退しようとしたんです。そうしたらミシュランの方が「みんなであなたを選んだのだから」とおっしゃって、わざわざ店までインタビューを取りに来てくださいました。私はただ、ここに来てくださるお客様の心が少しでも軽くなればと願っているだけなんです。本来、「穢(けが)れを払う」というのは、悪いことを清めるという意味ではなく、「枯れた気」を満たして元の元気な状態に戻すことを指します。かつて人々がお寺に参って心を整えたように、わずか数時間の食事の時間であっても、ここで過ごすことで気が晴れ、明日への活力に繋がるような、そんな時間を提供できれば、それが美山荘の使命だと思っています。

今回は、大阪から往復6時間かけて訪れた美山荘でしたが、時間をかけてでも訪れる価値がある理由がわかりました。今のように情報があふれていない時代から、文化人や著名人をはじめ多くの人々に愛され、心を捉えた名店の歴史と魅力を感じることができました。四季折々で楽しめる料理ですので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。

女将の中東さん(中央)と柴尾(右)、中村(左)

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