2020年6月15日更新

第11回 パリ近郊イエール(フランス)とカイユボット

イエールのカイユボット邸

パリ近郊のイエール(フランス)とギュスターヴ・カイユボット

私がギュスターヴ・カイユボットの邸宅を訪れたのは昨年の夏。パリの南東約20キロ、イエールという小さな町です。西洋絵画がお好きな人であればご存じの方も多いかもしれませんが、彼は印象派画家のひとりです。モネ、ルノワール、セザンヌ、ドガなど、錚々たる面々ほど知れ渡ってはいないかもしれませんが、その生き方と画風は心を打つものがあります。

ギュスターヴ・カイユボットは1848年パリに生まれました。父はナポレオン3世の軍隊に生地を納める製造業の経営、更には裁判官でもあり、大変裕福な家庭でした。この頃のパリは急激な人口増加とともに生活環境、都市衛生は悪化の一途を辿り、セーヌ県知事オスマンによる有名な「パリ改造計画」が実行された時代です(参考:この街にこの人あり第2回パリとセーヌ知事オスマン)。カイユボット一家も、より環境の良いパリ郊外の町イエールに広大な土地を購入し、夏を中心に過ごすようになりました。

溢れる緑の庭園には小川がせせらぎ、人々が木陰でくつろぐ

イエールにあるカイユボットの邸宅は2017年6月より一般公開が始まりました。まだまだ知る人ぞ知る穴場的なスポットと言えます。
よく画家のアトリエを再現して見学するというものはありますが、ここは19世紀の見事な大邸宅でカイユボット一家の暮らしぶり、彼らが愛した美しい自然がそのままに残っています。邸宅内にはナポレオン3世様式の家具が配され、窓から見える広大な緑の庭園、兄弟たちの部屋、美しく手入れされた英国式の庭園、敷地を流れるイエール川。カイユボット少年が大好きだった夏の思い出がたくさんつまった場所です。父と兄弟たちとボート遊びに夢中になり、彼はよくボートと川の絵も描いており、実際にボートも設計したほどです。

 

カイユボットの作品「ペリソワール」
「ペリソワール」とは、一人乗りカヌーのこと

カイユボットと印象派  

カイユボットはフランスのエリート養成機関であるリセ・ルイ・ル・グランに通い、1868年には法学部を卒業して学位を取得しています。ただ、その後は美術学校に通うなど次第に絵画の世界に傾倒していきます。
そして1975年、第二回印象派展に参加しています。その作品が「床削り」です。この作品はパリ・サロンに出品したが極めて低俗であるとみられ落選した作品です。極めて写実的ですが、黙々と床を削る3人の男。階級にとらわれず、労働することの美しさがよく表現されています。モネやルノワールなど他の印象派の作品とは雰囲気が異なりますが、オルセー美術館に所蔵されています。パリを訪れた際は是非とも見ていただきたいですね。

ところで印象派展ですが、失敗作の展覧会などと揶揄され、第二回の開催などできるだろうかと危ぶまれていましたが、カイユボットは開催のための資金援助ともに、他の印象派画家のサポートも快く買ってでました。そして第三回印象派展ではカイユボットが借りたアパルトマンが会場になっています。

 

作品は少ない。でも彼がパリの美術界に残した功績は大きい。

カイユボット自画像

前述したとおりカイユボットは裕福だったこともあり、他の画家のように買ってもらうために必死に描くということはなかったんですね。あくまで自分が気に入ったテーマ、そして必要な時に描いていた。そのためにカイユボットの作品は少ない。 父を亡くし莫大な遺産を継いだカイユボットは、ルノワールやセザンヌ、モネといった印象派画家の作品を購入し続けたコレクターでもありました。

度重なる家族の不幸もあり、彼は若くして遺言状を作成します。その中でコレクションをすべてルーブルやリュクサンブール美術館に寄贈することを書き残したのです。現在のパリ、オルセー美術館。ここに所蔵される作品の多くがカイユボットの遺言によりパリに残ったコレクションなのです。(4割は国外に流出。その1点がシカゴ美術館の目玉となっている「パリの通り、雨」です)
カイユボットの邸宅を訪れると彼の自画像に出会えます。自身の階級に固執することなく、美しいもの、後世に残したいものに真正面から向き合った芯の強さがうかがえます。

45歳の若さでこの世を去ったカイユボットが遺したもの。
単に作品を鑑賞するだけではなく、彼が過ごした町、家、自然と触れ合うことでより一層カイユボットが好きになるはずです。

 

日本で出会えるカイユボット

作品数の少ないカイユボットの作品ですが、日本で1点所蔵しています。
『ピアノを弾く男(1876年 カイユボットの弟を描いたものです)』 第二回印象派展に出品した作品です。
アーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館、間もなく6月23日よりリニューアルオープンします)で所蔵しています。東京駅からも近いので注目のアートスポットですね。オープンに合わせた企画展が中心なので、ご興味のある方は実際に展示されているかどうかは確認の上で行ってみてください。

次回は、ジュネーブ(スイス)とホドラーです。

次回は、ジュネーブ(スイス)とホドラーです。 お楽しみに!
次回更新予定:6月19日(金)

藤沢営業所所長:近 博之
 
 
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