2019年1月25日更新

豊穣なる大地が育むワインの国・モルドバ

ウクライナとルーマニアに挟まれた小国モルドバ(モルドバ共和国)は、近年「ワインの国」として静かな注目を浴びています。今回はモルドバについてご紹介しましょう。


様々な民族の支配を経て独立

モルドバはバルカン半島の北東にあり、東にドニエストル川、西にプルト川、南にドナウ川が西側のルーマニア、東側のウクライナとの自然の国境を成す、いわばロシア文化圏とバルカン半島諸国の境目に位置する国です。  気候は温暖で、なだらかな丘陵地帯が続く豊かな土壌であることから、石器時代にはすでに人類が暮らしていました。紀元前1世紀頃、モルドバに最初の部族国家を興したのはダキア人で、彼らは古代ローマ帝国と抗争を繰り返しつつも2世紀頃にその支配下に入ります。モルドバ人やルーマニア人の祖先は、このとき移住してきたローマ人とダキア人の混血による人々とされています。
キシニョウの講演に立つ英雄シュテファン大公の像
3世紀以降はスラヴ人やマジャール人、タタール人など様々な民族が侵入するなか、1349年、ボグダン一世がのちのモルダビア公国となるボクダニア公国を建国。公国は1457年に即位したシュテファン大公(在位1457-1504)時代に最盛期となり、領土は西はルーマニアのモルダビア地方から、東はウクライナの一部にまで広がりました。しかし公国は1512年にオスマントルコに征服され、以後18121年の露土戦争終結までモルドバはその支配下に置かれます。さらに露土戦争後はベッサラビアとしてロシアに編入され、第二次大戦後はモルダビア・ソビエト社会主義共和国としてソ連を構成することに。モルドバ共和国として独立したのは1991年のことでした。

そのコレクションはギネス級
世界のVIPも注目のワイン


現在のモルドバは豊かな土壌を活かした農業国で、とくにワインはモルドバを代表する特産品として世界的に知られ、英国王室の御用達にもなっています。モルドバのワイン生産は紀元前3000年頃にダキア人が始め、紀元前3世紀頃に入植してきたギリシャ人のワイン製法と融合し、古代ローマ帝国時代にさらに発展します。実はモルドバの緯度はボルドーの45度とほぼ変わらない46~48度。なだらかな丘陵と谷といった地形に石灰岩質の土壌は、ブドウ栽培に適していたのです。
(上)キシニョウ郊外にある現役の洞窟修道院(下)ミレスチ・ミーチのワインセラー
シュテファン大公は新しいブドウの品種を取り寄せたり、ブドウ園やワインを製造する修道院、製造業者を監督し品質管理を行なうなど、技術、品質の向上を図りました。モルドバのワイン生産はオスマントルコ時代に一時衰退しますが、19世紀には回復し、ロシア帝国やヨーロッパの貴族の御用達となり、ソ連時代には主要なワイン産地として高官のテーブルを飾ったのです。独立後の民営化に伴い、モルドバの主要輸出商品として投資も盛んになり、在日モルドバ大使館も日本各地でイベントやセミナーを開くなど、国を挙げてモルドバワインのPRに努めています。現在は年間で生産されるワインの90~95パーセントがヨーロッパを中心に世界30カ国以上に輸出され、2011年には世界ワイン生産国の第7位にランクインするほどに成長しています。

キシニョウ郊外のミレスチ・ミーチのワインセラーは、150万本以上のボトルを有する世界最大のワインコレクションとして、2005年にギネスブックに登録されました。セラーの地下は全長200キロにおよび、専用車で見学が可能です。キシニョウの南部郊外にあるクリコヴァのセラーのワインコレクションは、国家文化財に指定されています。

ここは世界各国のVIPも訪れており、ロシアのプーチン大統領やドイツのメルケル首相も、このセラーにワインを保管しています。

素朴な国の おもてなし好きの人々
モルドバの首都キシニョウは整備された大都市で、ここではモルドバ正教の大聖堂や民族博物館などが見どころです。中央市場には色鮮やかなオーガニックの野菜や果物が並び、チーズやハチミツはお土産としても人気。伝統的な図柄を刺繍したテーブルクロスや絨毯、素焼きの壺や皿などの陶器も素朴で温もりが感じられます。

街から郊外に出ると、なだらかな丘陵で牛や羊が草を食む田園風景が広がり、なんとものどかな風情が漂います。 こうした地で暮らすモルドバの人々はとてもおもてなし好き。モルドバの伝統的な家には必ず「カサ・マーレ」という広々とした部屋が設けられており、お客がくるとそこでワインや料理が盛大にふるまわれます。

豊かな土壌を持つモルドバは、しかし天然資源がほとんどないためエネルギーを輸入に頼らざるを得ず、それが国費を圧迫しているという事情があります。しかし近年JICAのODAにより、農業国ならではの利点を生かしたバイオマス燃料を用いた設備が開発され、生活環境も改善されつつあります。またワイン産業に加え、近年はIT産業にも力を入れており、未来へ向けて着々と歩みを進めているのです。知られざるモルドバの素顔を見に、ぜひ足を運んでみてください。

モルドバを訪ねる旅はこちらから(2019年1月現在)


主な参考文献
■『バルカン史』(柴 宜弘・編 山川出版社 2000年)
■『東ヨーロッパ』(森安達也・南塚信吾・著 朝日新聞社 1993年)
■『Experience Moldova』(モルドバ共和国大使館)
■『WINE OF MOLDOVA』(モルドバ共和国大使館)
■http://moldovaholiday.travel/