2014年7月18日更新

キューバの素顔、旅情誘う街並みと屈指の先端技術(後編)

ハバナ旧市街のカテドラル
前編はこちらから

ハバナの誘惑  

海沿いに開けた町ハバナは、スペイン植民地時代に築かれた要塞型の港湾都市です。これはヨーロッパにおける建築概念がそのまま植民地に移植されたものだといいます。さらにスペインと新大陸を結ぶ貿易ルートの中継港として、砂糖やタバコ、奴隷の売買が行われ、町は大いに繁栄したのです。  

世界遺産に登録されている、ハバナ旧市街にはバロック様式や新古典主義、さらにモダニズム建築など様々な建築様式の建物を見ることができます。  

建設ブームは18世紀頃訪れました。ヨーロッパで見かけるバロック建築は豪華絢爛ですが、ここではかの地で見かけるよりも控えめな印象を受けるかもしれません。これは、キューバで産出される石灰岩がもろいため細かな細工に適さず、手の込んだ装飾ができなかったためといわれています。建物内部は、スペインで発達したイスラムとキリスト教文化が融合したムデハル様式の装飾デザインが使われているものも少なくありません。その起源を16世紀にまで遡る、バロック様式のカテドラル(1704年建造、ビエハ地区)。ファサードにはサンゴ素材が使われており、壮麗な雰囲気が漂います。中央公園のそばにあるガルシア・ロルカ劇場も見事なバロック建築です。  
 
第1ゲバラ邸宅(博物館)から望む
 ハバナ旧市街
旧市街から湾を挟んだ対岸にあるカバーニャの要塞の兵舎には、革命の英雄と呼ばれたチェ・ゲバラの執務室が当時のまま残されています。隣接する展示室にはゲリラ戦の際に使ったゲバラの武器や愛用品のカメラなどが展示されています。執務室からは、ハバナの町を一望できます。  

ハバナ旧市街を散策すると、まるで21世紀ではないような、ここだけがゆっくりとした時間を刻んできたような雰囲気を感じます。スペイン植民地時代の石造りの建物がずらりと並び、石畳の通りでは地元の人々と観光客が行き交うそばを、50~60年代のクラシックな米国車が走り抜け、少しのんびりと、ビシタクシー(自転車タクシー)が風を切って進みます。どこからともなく陽気なキューバ音楽と人々の笑い声が聞こえてくると、すっかり幸せな気分になることでしょう。
 
ホテル・アンボス・ムンドス
ヘミングウェイ  

アーネスト・ヘミングウェイ(1899~1961年)を抜きにキューバとハバナを語ることはできません。ヘミングウェイは、ハードボイルド(写実主義の手法)による文体を築き、ノーベル文学賞にも輝いた文豪です。

米国イリノイ州シカゴ郊外の町で生まれたヘミングウェイは、人生の後半約20年間をキューバで暮らし、このカリブ海の島を故郷のように愛し、数々の著作を残しました。  

ハバナの旧市街地を散策すると、ヘミングウェイの足跡をいたるところで目にします。1930年代、旅行者としてマカジキ(マリーン)釣りのため何度も訪れた際に定宿としていたのが、「ホテル・アンボス・ムンドス」です。5階にある北東の角部屋511号室(当時は客室番号はなかった)には、彼の愛用品だったルイ・ヴィトンの旅行かばんやタイプライターなどが展示され、当時のまま残されています。この客室で、彼は『誰がために鐘は鳴る』を書き始めたといわれています。  

 
ヘミングウェイが暮らした
 フィンカ・ビヒーア
3番目の妻マーサ・ゲルホーンとともに、丘の上に立つ別荘ビヒーア(望楼という意味)に移り住みました。マンゴーの木が生い茂る隠れ家のような別荘は、『誰がために鐘は鳴る』の印税で購入したと伝えられています。ヘミングウェイは当初、別荘をそれほど気に入ってはいなかったといわれていますが、後に「生涯において落ち着ける唯一の家」だったと述べ、強い愛着を示しています。ノーベル文学賞に輝いた『老人と海』を執筆したのも、この別荘です。現在、ビヒーアはヘミングウェイが暮らしていた当時のまま保存されています。  

彼の一日は日の出とともに始まりました。朝から執筆活動を始め、仕事を終えると、午後は好きなことをして過ごしたようです。読書や海に出かけたり、昼寝をしたり、釣りや鳩撃ちを楽しんだり……。  

お気に入りのレストラン、「フロリディータ」では、砂糖抜きラム酒ダブルの特製ダイキリを何杯も注文し、気が置けない友人や知人らとの楽しいひとときを過ごしました。フロリディータには彼が座っていたカウンター席に像が置かれています。ヘミングウェイが愛したもう一つの酒がモヒート(ラム酒にミントの葉をたっぷりと入れたカクテル)で、お気に入りはカテドラル近くにある、「ラ・ボデギータ・デル・メディオ」のもの。
 
ヘミングウェイが通った
 コヒマルのレストラン「ラ・テラサ」

旧市街から東へわずか10キロメートルほど離れた漁村コヒマルは、『老人と海』の舞台であり、ヘミングウェイ自身がここから愛艇ピラール号でよく釣りに出かけていたそうです。  

キューバ時代に執筆し、自身をモデルにした『海流の中の島々』を旅立つ前に読むと、ヘミングウェイの愛したキューバが見えてくるでしょう。


主な参考文献
キューバへ行きたい(著/板垣真理子 新潮社 2011年)
キューバのヘミングウェイ(著/シロ・ビアンチ・ロス 訳者/後藤雄介 海風書房 1999年)
キューバを知るための52章(編集者/後藤政子 樋口聡 明石書店 2002年)
キューバ 革命と情熱の詩(著/「地球の歩き方」編集室 ダイヤモンド・ビック社 2007年)