2009年4月28日更新

イコンを求める

 エストニアのタリンには、イコンを取り扱う店が多く、17世紀から19世紀のものが数多くあり、これほどイコンが収集され販売されている町を見たことがない。野菜市場の一角にある数軒のがらくたを売るアンティークの店にもイコンだけはなかなかいいものが売られていた。そこで私が求めたのは、1枚1万円くらいの19世紀初め頃のもので、ほのぼのとしてなかなかいいものだ(と思っている)。タリンの市内を歩いていて驚くのは、イコンの専門店が何軒かあり、アンティークのイコンが何百枚も飾られていて、かなりレベルの高いものばかり。1枚5万から10万円も出せば、相当いいものを選ぶことができる。

 イコンは、日本では美術品として扱われるが、現地では教会や修道院だけでなく、家庭にも飾られていて民衆の篤い祈りの対象となっている。厚い板にテンペラで描かれた聖像は、何百年の歴史がかもし出す温かみのあるものが多く、絵柄も多様で、手元において、信仰とは離れていても心静かに楽しむのにとても良い。
 浅学の私としては、イコンについてうんちくを語ることは難しいことだが、簡単にいえば、イコンの存在そのものが東方の正教会と西方教会の違いだ。キリスト教の母体となったユダヤ教は偶像禁止の宗教だが、原始キリスト教に近い東方教会は、オーソドックスという呼び名のごとく正統を守るという立場から偶像を厳禁している。従って、西ヨーロッパの教会で見られるような立体的な彫刻は全くない。東方の正教会では、立体ではなく平面の聖画イコンが教会内に飾られている。ギリシャ正教を受け入れたロシアにおいては、ビザンチンのモザイクではなく、板絵中心のイコンが独自の発展を遂げてきたのだ。

 タリン市内でレベルの高いイコンを見せつけられると、市場で買ったものとは別にもう一枚手頃な価格で18世紀初めのものをつい求めてしまった。

写真上:イコンを取り扱うタリンのアンティーク店
写真下:店の壁一面に飾られたイコン