2018年8月10日更新

古代マヤの色彩をまとう グアテマラの民族衣装

グアテマラでは紀元前2000年頃から、天文学や数学を用いた高度な技術を有する古代マヤ文明が栄えました。16世紀、スペイン人の侵略で古代マヤの世界は破壊されますが、今でもこの国の先住民たちがまとう民族衣装には、古代からの遺産が息づいています。
毎週木曜日、グアテマラ中部の村チチカステナンゴの聖トマス教会前広場に大規模な市が立ち、近郊の村から大勢の人たちがカラフルな民族衣装をまとい集まってきます。その様相は、まさに色の洪水。模様や装飾などは部族ごとに違い、わかる人が見ると、どこの出身か判別できるそうです。

グアテマラの先住民はチチカステナンゴ周辺のキチェ族、グアテマラ南部のアティトラン湖南の村サンチャゴ・アティトランのストゥヒル族など約20部族で、先住民の比率は全人口の約6割。多様な地形と道路などの整備の遅れで人々の交流が困難であったことが、様々な民族衣装が守られた理由のひとつとされています。古代マヤの伝統が織り込まれた染織文化はこの国最大の魅力であり、それゆえグアテマラは「手織物の宝庫」とも呼ばれているのです。
女性が伝える古代マヤの衣装

マヤの民族衣装は主に女性のものにその特徴を見ることができます。衣装の基本は、上衣はウィピルという貫頭衣、下衣はコルテと呼ばれる巻きスカート。これにショールや、部族ごとに特徴を持つ頭飾りが加わります。マヤの衣装は裁断をせず、織りあげた布を接ぎ合わせたもので、ウィピルは部族により2枚接ぎ、3枚接ぎと、つくりも形も様々です。

一方男性の衣装は現代化が進み、昔ながらの衣装を身に付けた姿は祭りや観光地以外で見ることは少なくなりました。一般的には上着はカミサ(シャツ)に16~17世紀のスペインの影響を受けたジャケット、パンタロン。ファハ(腰帯)を巻く部族もあります。男性の必需品がボルサと呼ばれる布製のショルダーバッグ。男性が自身で作るもので、隅に皮を付けたり、蜜蝋を塗って補強することもあります。

男女問わず使われるのが、スーテという大きな布。荷物を運ぶことはもちろん、斜め掛けにして赤ちゃんを包んだり、畳んで頭の上に乗せ水瓶を運んだり、広げて日除けにしたりと様々な用途があります。

機織りと数字 マヤの伝統

衣服を作るための布地は後帯機と呼ばれる、古代マヤ時代からほとんど変わっていない機織り機で織られ、アティトラン湖の北にあるパロポ村ではその様子が見られます。 この機織り機は糸をかけていないときは棒の束。織るときは手前の棒と奥の棒の間に経糸を張り渡し、手前の棒の両端を腰に回した帯に結び付けます。奥の棒はロープで柱や木にくくり付け、体をぐっと引くとピンと糸が張るという仕組み。糸は主に木綿や羊毛で、現在は化繊も使われています。織物の大きさは用途により異なりますが、一般的には横幅は70センチほど、長さは150~200センチくらい。1枚を織り上げるのに2~3カ月かかるといわれています。

色彩に込めたマヤの宇宙

民族衣装に用いられる色は、赤は太陽の昇る東、黒は日が沈む西、白は天上界である北、黄は地下世界である南、青や緑は世界の中心と、それぞれに意味を持ちます。つまり彼らにとってこの5色を身に着けることは宇宙をまとうことでもあるのです。
その色をつくり出す染料は、現在は化学染料によるものがほとんどですが、かつてはアチョーテ(紅の木)、茜系の植物やウコン、桑など、自然界から採取されていました。赤い染料はサボテンに付く虫・コチニールから。黒色にはグアテマラ中部の低地に自生するログウッドと呼ばれる植物を使用。発色がよいことから英国では礼服用の糸を染めるのに利用され、コチニールとともに19世紀までグアテマラの主要な輸出品でした。

紫色は太平洋やカリブ海の岩場に棲むアッキガイの分泌物から得られる色素で、貝紫と呼ばれています。おもな産地はコスタリカで、グアテマラには商人によって運ばれ、絹や木綿と交換されていました。1グラムの染料を採るために2000個の貝が必要となる貴重なもので、古代には位の高い人や、礼装用の晴れ着などに使われた、高貴な色でもあったのです。

民族衣装博物館

グアテマラの民族衣装は伝統的な製造方法や意匠を残しながらも、時代の流行などを取り入れ変化しています。一方で国が安定し、道が整備され物資の流入などが以前より容易になったことから、服装も西欧化が進み、都市部では民族衣装を着る人たちは非常に少なくなりました。「手織物の宝庫」といわれるグアテマラですが、その文化の消滅に危機感を抱く人たちも少なくありません。

そこで伝統文化を保存・記録しようと1970年代に建てられたのが、グアテマラシティの「イシチェル民族衣装博物館」です。イシチェルとはマヤの神話に登場する豊穣と織物の女神の名。小規模な博物館ですが、国内各地で収集された4500点以上の織物や織機などを所蔵し、展示内容も充実しています。現地を訪れた際は、立ち寄ってみてはいかがでしょう。

「グアテマラ 彩色豊かな村めぐりと世界遺産の古都アンティグア 8日間の旅」はこちらから(8月10日現在)



主な参考文献
■『大英博物館ファブリックコレクション グアテマラの織』(アン・ヘクト・著/近藤修・訳/デザインエクスチェンジ 2003年)
■『装飾デザイン4 特別企画グアテマラの染織と工芸』(学習研究社 1983年)
■『染織の美28特集 グァテマラの染織』(京都書院 1984年)
■『写真でわかる謎への旅 マヤ/グアテマラ&ベリーズ』(辻丸純一・著/雷鳥社 2001年)
■『グアテマラを知るための65章』(桜井三枝子・編著/明石書店 2006年)
■『グァテマラ国における女性の民族衣装について』(引地加寿恵)