2018年2月9日更新

フォアグラも! トリュフも! オクシタニーの多彩な郷土料理

フランス南部の地中海に面するオクシタニー地方の特産品は、いずれもフランス内外で評判の高い高級食材ぞろい。今回の旅のエッセンスは、オクシタニーの魅力のひとつである多彩な郷土料理をご紹介します。


百年戦争で生まれた オクシタニーの名物カスレ

フランス料理と聞くと、華やかで複雑な料理という印象をお持ちの方が多いことでしょう。でも、一般のフランス人たちが日々食べているのは、その土地で作られている素材を使い、生活の中で工夫して生まれた郷土料理や家庭料理。とりわけ、ワイン生産量がフランス国内の3分の1を占め、トリュフやフォアグラの産地として知られるオクシタニー地方は、地域の特性を活かした独自の食文化が生まれました。  まずは前菜から。オクシタニーといえば、フォアグラが定番。マルシェに行っても必ず目にするはずです。地元の人たちは年末になるとクリスマスに向けて、生のフォア(鴨やガチョウの肝臓)を購入して自家製フォアグラのテリーヌを作るそう。もうひとつの名産であるトリュフとクルミの風味も味わいたいものです。産地だけあって、ブラッスリーではフォアグラのテリーヌ入りサンドイッチを見かけることもあります。鴨料理にはフォアグラだけでなく様々なアレンジがあり、マグレ(胸肉)のグリル、エギエット(薄切り胸肉)、カリッとしたコンフィ、砂肝のサラダなどにもして食べます。
カスレ
さて、お待ちかねのメインは、この地方定番の郷土料理であるカスレを忘れずに試してみましょう。主材料は白インゲン豆。ガチョウや鴨のコンフィ、豚肉やラム肉の塩漬け、香味野菜と香味野菜を加えてカソールといわれる土鍋で火を通し、表面にこんがり焼き色がついたら食べごろです。  

このカスレの元となる料理が生まれたのは、フランスの百年戦争(1337~1453年)の頃だといわれています。戦渦にあえぐカステルノーダリ(カルカッソンヌの北西約40キロに位置する村)の人たちが、村に残っている、あるだけの食材、豆、豚肉などを底の深い土鍋に入れて脂で長時間煮込み、疲弊した兵士たちにふるまったのが始まりだとか。この土鍋がカソールで、伝統的に陶器生産が盛んなこの地方独特のもの。カソールを使って作られた料理だから「カスレ」という名前がつけられたという説が有力です。ちなみに、トゥールーズもカルカッソンヌも自分たちこそカスレの本家であると自認しています。大きな違いは前者にはガチョウの肉が入り、後者にはラム肉が入っていることだといいます。


地中海のラグーンが育む牡蠣 美食を支えるチーズも
 
オクシタニーの牡蠣 ©Andy Mitchell 
オクシタニーは地中海の海岸線を有するので、新鮮な海鮮料理も楽しめます。とくに牡蠣は冬場の風物詩。レストランの店頭では、エカイエと呼ばれる牡蠣むき職人が、すさまじい勢いで牡蠣をひとつひとつむいています。 オクシタニーの牡蠣は主に波の穏やかな地中海のラグーンで養殖されており、丸く小ぶりで身が締まり、あっさり味なのが特徴です。生で食べるのがフランス流で、レモン、エシャロット入りのワインビネガーをかけながらいただきます。オクシタニーの大地と太陽に育まれた、おいしい地元のワインも併せて楽しみたいものです。
オクシタニーの食材の数々 ©Dominique VIET
オクシタニーでは、世界三大ブルーチーズのひとつ、ロックフォールをはじめとした本場のチーズも味わえます。ロックフォールは真っ白なチーズの地肌に青カビのマーブル模様が美しいチーズ。青カビ好きには、独特のピリッとした刺激とクリーミーな味わいのハーモニーが堪えられないことでしょう。そのまま食べてもいいし、ナッツ、レーズン、はちみつとも合います。フランス美食の伝統を支えてきた大きな支柱のひとつです。

ロックフォールはトゥールーズから東へ150キロ、荒涼とした大地に突然現れる岩山にへばりついたような小さな集落・ロックフォール村が原産で、昔からこの村の中にある洞窟の中で熟成が行われています。羊飼いがチーズを忘れて偶然できたという逸話があり、1666年以来、トゥールーズ高等法院によって保護され、今でもこの洞窟で熟成したものだけがロックフォールと名乗ることができます。イタリアのゴルゴンゾーラ、イギリスのスティルトンとともに世界三大ブルーチーズと呼ばれていますが、唯一、羊の乳を原料としています。



リンゴとアルマニャック こだわりの名物デザート

カスレをはじめ、メイン料理の多くはものすごいボリュームで、日本人ならこれだけで満腹になってしまうかもしれませんが、地元の人たちはデザートも必ずいただきます。
カオールのワインとくるみ ©CRT Midi-Pyrénées -D.VIET
名物デザートのひとつがパスティス・ガスコン。紙のように薄く伸ばした生地にアーモンドクリーム、リンゴを入れて焼いたもので、パイがサクサク、中身のリンゴがジューシー。このリンゴはコニャックと並ぶフレンチブランデーの名酒アルマニャックに漬け込んであり、非常にいい香りがします。しかも、パリパリの生地にはつやを出すために、かつては鴨やガチョウの脂を使っていたそう。お菓子にまで鴨やガチョウを使っていたという、この地方ならではの食文化の奥深さに驚かされます。


主な参考文献
■『世界の食文化⑯フランス』(著/北山晴一 農山漁村文化協会 2008年)
■『ベーシック・フレンチ地方のおそうざいレシピ』(著/大森由紀子 世界文化社 2014年)
■『フランス料理の歴史 その栄光の軌跡』(著/ジョルジュ・ブロン ジェルメーヌ・ブロン 三洋出版貿易 1982年)
■『基礎からわかるフランス料理』(著/安藤裕康 古俣勝 戸田純弘 柴田書店 2009年)