2017年12月19日更新

ようこそアラブへ

UAEに嫁いだ
日本人女性の暮らしとは


知っているようで知らないアラブ世界。歴史や文化を学ぶことはできますが、市井の人々の価値観や日々の暮らしなどにふれる機会はなかなかありません。本書はUAEの男性と国際結婚し、3男2女をもうけたハムダなおこさんによるエッセイです。

アラブ女性というと、髪まですっぽり覆う黒い衣をまとった姿が浮かぶでしょう。ハムダさんも外出時には露出のない伝統的な服装をし、夫以外の男性とはほぼ目を合わせないというしきたりを守っています。そんなの窮屈ではないのか、女性の自由は? ついそう思ってしまいますが、実際に長年暮らしているハムダさんには、日本人や西洋的な価値観では感じ取ることができない、彼らの美意識や名誉のあり方が見えているようです。たとえば商店の前で車から降りずに、店員を呼んで注文するUAEのマダムがいます。彼女たちはお金持ちだから大きな態度をしているわけではなく、狭い店内で男性と慎みのない距離に近づいてしまうことを避けるために、やむを得ずそうしているのだとか。娘の学校の保護者会では、お母さんたちと直接目を合わせないですむ絶妙な座席配置で、男性教師たちが議事を進めていく様子に感心したり。そんなアラブの価値観に基づいた振る舞いを、ハムダさんの夫は「エレガンス」という言葉で表現します。それは見た目の美しさではなく、「自分の名誉をしっかり守る。誰の名誉も汚さない。他人をむやみに責めたり追い詰めたりしない。不用意に他人に貸し借りをつくらない。常に相手をリスペクトして、距離を縮めない。そういったこと全体」がエレガンスなのだ、と。

著者は1989年に早稲田大学を卒業した才媛であり、東京での自由闊達な学生時代を経験しています。外出もままならないアラブ女性の伝統的な暮らしは、きっと大きなカルチャーショックだったことでしょう。しかし、異文化にただ反発したり批判するのではなく、客観的な視座を保ちつつも、彼らの価値観に心を寄せていきます。いわゆる旅行記の類では知ることのできない生き生きとした経験に基づいた、アラブ世界を身近に感じられる一冊です。

( 『WORLD旅のひろば』2017年12月号World Book Selection)