2013年11月5日更新

ビルマ・ハイウェイ 中国とインドをつなぐ十字路


ビルマ・ハイウェイ 
著/タンミンウー 訳/秋元由紀
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ビルマは新しいアジア世界の中心になれるのか?

日本ではビジネスの世界で「アジア最後のフロンティア」として注目されるミャンマーですが、どれだけこの国について知られているかというと心もとない気もします。「中国とインドをつなぐ十字路」としてこのミャンマーを描き出した本書は、2011年秋の刊行時、英米で連日のように話題になったそうですが、日本でもようやく訳出されました。

プロローグにある「裏口から入るアジアの話」というのにひかれて本書を手にしました。訳者後書きによると、著者は、祖父にビルマ人の元国連事務総長のウータンさんを持つビルマ史専門家で、「ビルマに関する英語の報道記事には日常的に登場する」らしく、テインセイン大統領の諮問評議会の評議員などを務めるなど、「ビルマで現在進行中の自由化改革の主流にいる人物」とのこと。そんな肩書きの著者が本国ビルマ、中国雲南省、インド北東部アッサム州などを訪ねて巨視的にこれらをとらえ、その行方を洞察していきます。

今年7月、ミャンマー沖のベンガル湾と中国雲南省をつなぐ約1100キロメートルの天然ガスのパイプラインが完成したと報じられました。近く、並行する原油のパイプラインも完成予定とされます。これによって、中国は中東から運んできた原油と天然ガスを、マラッカ海峡を通過せずに手に入れられることになります。内陸からもうひとつの海の出口を得たことは、中国の外交・経済政策上、画期的なことです。中国にとって、ビルマは欠かせない地理上のポイントなのです。

一方、ビルマの西には、目を覚ました巨象、インドが控えています。ビルマはかつて英領インドの一部だったこともあり、1966年生まれの著者でさえ、外国と感じたことがないというくらい親近感があるそう。それは近代に始まったことではなく、仏教が紀元前3世紀にもたらされたのをはじめ(諸説あり)、数学や科学など、古くから数々の恩恵をインドから得てきました。しかし、英領インド亡き後、以前のような交流は途絶えてしまいました。その空隙を縫って進出してきたのが、改革開放路線に舵を切った中国でした。長らく続く欧米の経済制裁の中で手を差し伸べてきたのも中国でした。しかし、けっしてビルマがもろ手を挙げてこれを歓迎しているわけではなく、脅威も感じています。

また、中国との国境付近には、ビルマ軍政と戦ってきた少数民族が暮らし、国交を密にするにしても、閉じるにしても彼らの存在を無視できません。インドも、中国のビルマへの伸出を見過ごしていていいものかと動きだしています。しかし、ビルマと国境を接する北東部にはナガ人をはじめ、インド「本土」と戦ってきた人々がいます。

本書には、よく知らなかった、このビルマ、中国、インドの国境・辺境の歴史がこと細かに語られていて、誠に読み応えがあります。雲南やインド北東部を訪ねた際、年表を眺めても、断片的で意味がよくわからなかった、このあたりの歴史がつながって合点がいきました。

かように、ビルマは中国とインドをつなぐ立地にあり、(ありえないかもしれませんが)至極複雑なこれらのファクターをすべて解決でき、インドと中国が手を結べば、この場所は一転、世界の中心的な役割を果たすことになります。成長著しいアジアにあって、忘れられたようなこれらの辺境の地が秘めた大いなる可能性と、その背後にある複雑な歴史に光を当てたエキサイティングな一冊です。

(「WORLD旅のひろば」2013年11月号World Book Selectionに掲載)