西湖十景のひとつ「雷峰夕照」の絶景を占める―汪荘
 1920年代の上海で「汪裕泰茶号」という茶商を経営し、相当羽振りの良い商いをした汪荘の主人、汪自新は龍井茶の里、ここ杭州の西湖畔をこよなく愛した。彼が資力をあかせて雷峰塔を借景に選んで建てたのが、この名園(別荘)で、現在の西子国賓館(ホテル)である。彼はまた優雅な趣味人でもあり、琴と花には特に腐心して、今でも四季を通じて花が絶えることはない。
 近年大きく発展を遂げ、高層ビルが林立し始めた杭州の市街を抜けて、この西子国賓館の広々とした庭園ホテルの敷地に入ると、たちまち100年近い過去にタイムスリップしてしまう。ご覧のように江澤民や朱鎔基など、歴代の政治要人の滞在碑を庭の一角に見ることができ、国賓館としての風格に華を添えているが、なかでも毛沢東は1953年から1975年までの間になんと27回もここに滞在し、憲法の草案を練り、書物を読み、また詩作に励んだという。一般客室はやや旧式で手狭なためにツアー宿泊は見送るが、ここの名作料理「汪氏家宴」は、強烈な杭州の想い出のひとコマになることだろう。一級の味はもちろんのこと、一皿一皿がまるで絵のような見事な出来栄えで、その豪華さは圧倒的、感動である。
 宿泊ホテルはここからほど近い、やはり西湖畔に新しく建てられた「西湖大酒店」を選んだ。階上からは西湖が一望できて、杭州滞在を実感できることだろう。

大富豪の夢の跡―清末の巨商・胡雪岩
 西湖の東側の小高い山、呉山。その麓の呉山広場から東西に清河坊街が通っている。近年(2001年)開発されて、清末から民国初期の姿に復元された、歩行者天国の商店街に一変、観光客を集めている。その一角に、昔のままの巨大な白壁に、なんと4メートル四方を超える迫力のある文字が7つ、黒々と書かれている。
 「胡慶余堂國薬号」。これが清朝末期に江南一大巨商と称された胡雪岩(1823〜1885年)のビジネスの拠点、漢方薬店「胡慶余堂」であった。青灰色の石の門をくぐると、正面の中医(漢方医)の診療所に白衣の人影が見える。さらに壁伝いに進むと、中庭の欄干で人々が世間話などをしている。ここを抜け「胡慶余堂中薬博物館」と金文字で書かれた門を入れば、そこからは漢方薬の博物館になっている。薬店ではあるが、迷子になるほど広大な敷地に建てられた、典型的かつ江南における歴史的な家屋には瞠目するだろう。古い建築物を背景に中国服のモデルさんが2人。何かのポスターの写真撮影だという。北京の同仁堂と並んで、「北に同仁堂あれば、南に慶余堂あり」と称されるほどの名声を極めた胡慶余堂である。
 胡慶余堂からさらに東へ数分、中河という小河川を渡ったところには、その胡雪岩の堂々たる故居が背の高い壁に囲まれて残されている。7000平方メートルという敷地に築かれた豪壮華麗な園林邸宅で、どの建物も紅木やケヤキなどの高級木材をふんだんに使っていて、「芝園」と名付けられた庭園には池に緋鯉がゆったり泳いでいる。この贅を尽くした邸宅に胡雪岩が住み暮らしたのはわずか10年ほど。金融危機、外国資本への対抗と敗退。1883年には、北京、上海など各地に支店を出していた銭荘(銀行)はすべて倒産。破産に追い込まれた胡雪岩は、この屋敷も胡慶余堂もすべて差し押さえられ、2年後に寂しく世を去った。その後、屋敷は幾度も主を替えていったが、中華人民共和国成立の後は学校や工場として使われた時代もあったという。

龍井茶の里の茶館にて
 龍井景で名高い杭州だが、西湖畔の茶館「青藤茶館」で休憩。竹をふんだんに使ったインテリアとほの暗い照明で落ち着いた雰囲気。随所に飾られた書画や鉢植えの緑、珍しい茶器のコレクション。小さな美術館のような風雅な空間とともにゆったりお茶を楽しむ。これもなんとも心身が安らぐひとときであった。好みの茶を注文し、ビュッフェスタイルの数々の点心は食べ放題というシステムはうれしい。蒸しカステラやナッツ類のほか、荷包糯米(もち米と肉の餡を蓮の葉で包んだもの)など江南風味の点心がずらりと並んでいる。観光客は少なく、どうも地元の人々の憩いの人気店のようだ。このような茶館が今では300軒を超すというが、それもここ10年ほどのこと。
 そして南山路の西湖畔の一角には、最近「西湖新天地」と名付けられたお洒落なレストラン街が完成。イタリアンやベトナム料理の店などが緑の中に点綴している。スターバックスもけっこう賑わっているのにはびっくり。
 杭州料理の名店、楼外楼も健在で、懐かしくまた心強かった。周辺の北山路一帯は、道路や橋の改修工事中であった(8月現在)が、この工事も国慶節(10月1日)に合わせてすべて完成するとのことで、秋以降は再びその閑静な姿を見せているはずだ。
 その北山路に面して壮麗な洋風建築が西湖を望んでいるが、これが1922年に建てられた杭州最初の高級ホテル、「新新飯店」である。20年代の独特の雰囲気はモダンでノスタルジック。著名人の数々を迎えた華やかな歴史を持つが、ここも最近改築を済ませて3ツ星ホテルとして開放されるようになった。屋上に上ってみたが、北側からの西湖の全容を眺め渡せて絶景だった。1階のレストラン新新庁もレトロで落ち着いた雰囲気で、何より味が一級であった。
 12年ぶりの杭州。思いを巡らすと、西湖と六和塔、そして杭州料理(杭邦菜)くらいしか印象になかったが、今回訪ねた杭州は、まさに「温故知新」。当時見られなかった古きものに手を加え、ここ3、4年の間に続々と新しい発見を楽しませてくれるワクワクドキドキの魅力いっぱいの街にすっかり変貌を遂げた、それが率直な印象である。かつて杭州を訪ねた方々にも、ぜひ再訪をおすすめしたい。
 

西湖の南側、雷峰塔から北側を望む

汪氏家宴(国賓の宴席料理)

西子国賓館の2号楼は当時の洋風建築

江澤民・朱鎔基の碑

薬店とは思えない立派な江南の邸宅(胡慶余堂)

胡雪岩故居は2001年に初公開された

青藤茶館は地元の人気店(ホテルから徒歩約7分)

新新飯店7階テラスからの西湖の眺め

ノスタルジックな正面

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