−中国・四川省の現地調査に行かれましたが、大地震の影響などいかがでしたか?
菊間:今回は、松本専務とふたりで行ってきたわけですが、私は成都とその周辺、松本は九寨溝や黄龍まで足を延ばして現状をつぶさに見てきました。
成都では、四川省の旅游局長や副局長はじめ各部署の責任者の方々から直接話を聞いたり、四川省各地の観光行政の責任者の方々とも会見するなど、短期間の訪問でしたが、かなり詳細に現地の実態を知ることができました。
−日本では、四川省のツアーを中止している会社が多いのが現状ですが。
菊間:私どもも現地が混乱しているであろうことや、その被害がどのくらいの規模であるのか、また、修復にどのくらいの期間がかかるのか、全く不明だったために中止という方向で臨んでいました。
しかし、成都においては地震の被害が全くないといってよく、一部の地域以外は平常時と何も変わっていない状況です。日本では「四川大地震」とメディアで呼ばれていますが、中国では「ブン(さんずいに「文」)川大地震」と呼ばれています。 ブン(さんずいに「文」)川周辺、都江堰やパンダで知られる臥龍、九寨溝への道中にある茂県辺りが被害地で、そのほかの地域では当日揺れは感じたものの建物や道路の被害などはなかったそうです。むしろこの地震によって観光客が全く来なくなってしまったことの被害のほうが大きくて深刻な問題だと言っていました。
松本:私もさぞ地震の爪跡が残っているだろうなあと思っていただけに驚きました。人々の生活ぶりは以前と同じですし、社長とお見舞いを持っていったのですが、こちらが少々とまどってしまうほどでした。ガイドさんやバスの運転手、ホテルのスタッフなどとも話しましたが、やはり仕事がなく給料が出ないのが辛いと言っていましたね。
−そうしますと、成都や九寨溝などは、地震の影響もなく
旧来どおりの観光ができるということですか。
菊間: 九寨溝や黄龍に関しては、松本から報告してもらうとして、私が成都にいるときには、最も賑やかな広場(伊勢丹百貨店の前)で四川省の観光フェスティバルが催されていました。
四川省各地、たとえば大足石窟や峨嵋山などがブースを出してのぼりを立て、中央のステージでは民族舞踊などが披露されていて、成都市民に旅行を呼びかけていました。大勢の市民たちが旅行パンフレットを熱心に見ていました。そこに参加していた四川各地の観光関係者から日本の観光客に早く四川省に戻ってきてほしいと懇願されました。
松本:私は実際に九寨溝や黄龍に視察に行ってきましたが、今現在の話でいうと、九寨溝はシェラトンホテルが平常どおりにオープンしていて、そのほかのホテルが休業しているという状態でした。
これにはふたつの理由があり、ひとつは県政府による建物の安全調査が済んでいないこと、もうひとつは、彼らの主な宿泊客であった中国人の国内旅行がほとんどストップしていることで、オープンしてもお客様がいないから、とのことのようです。
中国人の旅行の場合、その多くは費用面から成都−九寨溝の空路は利用せず、陸路を利用しています。道路の修復はまだ終わっていないために彼らは行くことができず、仮に行くことができたとしても外資系のシェラトンホテルに泊まるには高すぎます。信じられない話ですが、九寨溝は一日に約3万人の入場者がいたのが、現在わずか100人から500人だというのです。
−九寨溝の保護区が東京23区よりひとまわり大きいくらいの広さですから、
そこに100人から500人しか入場者がいないというのは、ほぼ無人ということですか。
松本:そういっていいでしょう。
九寨溝は今や中国一人気の世界遺産です。1992年に世界遺産に登録されていますが、ちょうど中国国内客の旅行ブームも重なって、1995年頃からは国内外から観光客が押し寄せるようになり、年々その混雑ぶりが話題になっていました。その結果、九寨溝専用に混載用の大型バスとチャーター用の小型コースターバスが合計で420台を超えるまでになりました。
それが、ブン(さんずいに「文」)川地震の影響で、使用されるバスは10数台で事足りるという状況に陥っているのです。西安や重慶からの九寨空港へのフライトも乗客がいないので消えてしまいました。
7月13日に視察しましたが、この日は日曜日ということで、ウイークデイよりは訪問客が多いとのことでしたが、一日計500名前後、外国人の姿は見かけず、西安や広州から飛行機を乗り継いできた中国人のいわゆるお金持ちの観光客でした。あの広大な自然空間に500名が専用バスで散っていくわけですから、レストハウスでのランチタイム以外は観光客とと出会うことはないわけです。
景勝区の近くに専用バスの巨大な駐車場があるのですが、観光客を静かに待つ夥しい数のグリーンの大型バスと茶色のコースターバスを目にしたときには、あまりに気の毒すぎて涙がでてしまいました。
レストハウスもけっこうな規模で、400名以上のスタッフが常時勤務しているのですが、今はたったの28名とのこと。
ドライバーさんやレストハウスのスタッフをはじめたくさんの人々がいわゆるレイオフ状態で、一日も早く職場に戻れる日を待っている、そんな状況なのです。
−黄龍はどうでしたか。
松本:九寨溝以上に人が少ないのが、黄龍でした。せっかく新しい遊歩木道が完成したばかりだというのに。でもおかげで整備が行き届いて歩きやすくなっていて、それこそ「独り占め」といった印象で、あのファンタジックな奇観を満喫してきました。
九寨溝が清楚な女性とするなら、黄龍は逆に男性的なダイナミズムで迫ってきます。山肌全体が茶黄色の岩質で、そこに相当な量の水が、起伏に合わせて流れ落ち、様々な奇観を造り上げています。トルコのパムッカレの白色に対し、黄龍は黄色の龍が横たわるかのように、そのスケールも遙かにパムッカレを凌いでいます。
数軒あるホテルはどこもオープンしていませんでしたが、黄龍では最高レベルの華龍山荘の支配人の話では、オリンピック後の8月末には再開したいとのこと。 新たな発電設備を加え、これまでの電力不足を補強したので、今シーズンからは寒さの心配もなさそうです。九寨溝同様に、水量がこれから次第に増え、9月、10月頃に最も迫力ある眺めを楽しめるシーズンを迎えます。
菊間:現地の物価は少々高くなっていると聞いたけどどうだった? 話によれば、日常品や食料品などを運搬するのに遠回りしなければならない。その量も、ごくわずかで、人件費なども嵩んでいるので仕方ないと言っていたけれど……。
松本:これは、物流が現状では飛行機に頼らざるを得ない中では、致し方ないなと理解しました。といっても、中国ですのでベースがさほど高くはありませんから、「推して知るべし」のレベルです。一部の嗜好品(5ツ星ホテルでのタバコやコーヒー)など、意外なものが意外なほど高い、という感じで、日本の物差しで考えますと、ちょっと驚くようなこともあります。でも、これが中国という国なのだと割り切って考えたいですね。
菊間:九寨溝は外国人に解放された直後から何回か行っているけど、私が思うに世界自然遺産の中では、世界トップの美しさと神秘性を誇っていると思う。国内外から大勢の観光客が来るのも当然だし、この美しさを期待以下と評価しない人は聞いたことがない。水の織り成す美しい景色のすべてがあると各所で言ってきたけど、ここに人がいない。いわば独り占めなんて考えられない。視察とはいえ、相当感動的だっただろうね。
松本:九寨溝は、実は私にとって初めての訪問でした。ワールド航空サービスは1979年以来、長年中国ツアーを開発してきましたので、私も、営業関係者として、黄山、武陵源、武夷山水等など、中国の景勝地を見てきていますが、インパクトという点では、まさに「ほかに類を見ない」という形容がぴったりの、ある意味、異次元的な世界が目前に広がっていました。あまり驚く性格ではないのですが、衝撃を受けたというのが本音です。絶え間ない水の大・小の動きは、神秘というより、私には「童話の世界」に見えました。まるで宮崎駿監督のレベルの高いアニメの中に足を踏み入れていくような不思議な感覚です。(ちょうど、日本の梅雨のような)雨季が8月くらいまで続いている最中で、残念ながら今回は太陽には恵まれませんでしたが、9月中旬からは雨季開けを迎え、100を超す湖・池・沼も次第に水かさを増していきます。国内の観光客を中心にお客様も増えていくでしょうが、成都からの陸路が断たれていることで、「独り占め」は言い過ぎかもしれませんが、これまでになかった静かな環境で、今シーズンは九寨溝に浸れることだけは、まず間違いないと思います。
−一刻も早い再開が期待されるところですね。
菊間:四川省の観光関係者とも協力しあって、がんばれ四川省キャンペーンを開始します。
今回、私と松本と両者で現地を訪ねて、四川省のツアーをすぐに再開すべきだと痛感しました。成都で会う人たちに必ず言われたのが、地震直後の日本の救援隊のことです。これには、現地は本当に感謝しきりで、日中の絆がより強まったことをうれしく感じました。私たちも私たちの立場でお見舞いに行った次第ですが、一刻も早い四川省ツアーの再開が彼らの切実な願いですし、環境はすでに整っています。
松本:そうですね。違った見方をすれば、観光客が少なく、こんな絶好の機会はもうないでしょう。がんばれ四川キャンペーンにぜひ参加していただきたいものです。
菊間:従来の観光地だけでなく、新しい観光名所も登場しています。
ひとつは、成都近郊の「寛巷子」というところで、この6月にオープンしました。3本の通りで形成された街区ですが、昔、清朝のお偉方が住んでいた場所で、四合院造りの住居が建ち並ぶ街並みを現代に美しく蘇らせました。四川省というと、九寨溝などの自然景観や大足の仏教石窟が知られていますが、ここも近いうちに観光客が押し寄せてくるところだと思う。中国全土の中でも、かなり旅情を感じさせる絶好の被写体になる場所だと思うし、北京の胡同以上のところです。成都の昔ながらの風情とトレンディなものが見事にマッチして、かなりハイレベルな名所のデビューという感じだった。
ほかにも初めてご案内する古都ロウ(もんがまえに「良」)中も見ものです。こんな新しい見どころも出てきているので、今回のキャンペーンでは、今までに九寨溝に行かれた方も再訪してほしいと思う。
松本:確かにそうですね。とにかく誰もいない九寨溝の神秘的な美しさ、紅葉の時期に合わせた九寨溝はことのほか美しい。ご覧になってない方はもちろん、行かれたことのある方もこのシーズンにぜひ再訪していただきたいものです。
−帰国早々の対談で現地生中継のような臨場感のある話となりました。同席して聞いていた社員たちも皆、視察時の映像を凝視しながら、目を輝かせて再開の日を心待ちにしているようでした。
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