日本人が年末の恒例行事として、「第9」を聴くようになったのは、いつ頃からだろうか。確か、専務の松本がまだ学生のときに、年末は「第9」を聴かないと年を越す気になれない、などと言っていたのを覚えているから、少なくとも40年以上は前のことだろう。
土曜日にNHKホールで第9を聴いた帰り道、会場を後にする人々の表情には感動とともに安堵感というか、これで新しい年を迎えられるという感じが漂う。
確かに、第4楽章は圧倒的だし、《An die Freude(歓びのうた)》は、晴れやかに歓喜、博愛を歌い上げる。一年の最後に聴くにふさわしいし、楽員さんたちも、第4楽章はかなり疲れが出るだろうが、力をふりしぼって弾き終える。観衆も、合唱団員たちも全員で、熱い拍手をして終え、清々しさも格別だ。
ところで、旅行屋の性分からか、もしもベートーヴェンがモーツァルトやゲーテのように、イタリアやフランスへ旅をしていたとすれば、規律的、質実剛健でドイツ的な楽風がどう変化しただろうか、などと思ってしまう。ドイツで生まれ、ウィーンで暮らし、旅らしいものは恋人のいるチェコとドイツの国境近くにある小さな街へ行くぐらいで、それ以外の地にどこにも出かけずに生涯を終えてしまった。
ベートーヴェンにいろいろな土地へ旅をさせてみたかった。そしてもっと多くの曲を世に残してほしかった、と他愛のないことを考えながら家路に着いた。
(写真はウィーンフィル(イメージ) かつてフルトヴェングラーが第9の名演を繰り広げた 写真提供:オーストリア政府観光局)
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